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あえばさんのブログです。(※ブログタイトルはよろぱさんからいただきました)
レビュー・感想・紹介
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好きなラノベは『左巻き式ラストリゾート』、饗庭淵です。
実をいうと、というほどでもないですが、僕はラノベというものをあんまり読んだことがなかったのです。
でもまあ、食わず嫌いはよくないよね! 偏見はよくないよね! みたいな精神で、何作か手当たり次第に読んでみました。
今書いてる作品がラノベっぽいので、お勉強みたいなものですね。
設定が被ってそうな作品を3作品、それ以降はデタラメ。
では、まとめてレビューを載せてみましょう。



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まず言いたい。
量子力学ぜんぜん関係ねー!!

はい。
わたくし「SFにとって量子力学ネタは地雷」という自説を持っていまして。
んで、「エヴェレット解釈」や「シュレディンガーの猫」というキーワードが現れたらかなりやばい。
この小説はその説をさらに強めるものになりました。
ハッキリ言って、SFというよりは量子力学の用語を借りて「確率」「観測」だのをこねくり回した言葉遊びでしかない。

つまり、量子力学における「観測」についてかなりありがちでわかりやすい誤解をしている。
人間の認識とか解釈とか主観とか脳とか一切関係ないからね?
ミクロスケールでは観測という行為そのものが観測対象に影響を及ぼしてしまうので正確なデータをとることが原理的に不可能だという話であり、観測者は別に人間でなくてもいい。
量子力学とSFの相性の悪さはそこだ。
SFも文学である以上、基本的に主人公は人間であり、マクロスケールの話になる。
量子力学は人類とはおよそ縁のないミクロの話であり、物語には絡みようがない。
ミクロスケールでの不思議現象をマクロに輸入しても言葉遊びにしかならない。
マクロでも壁に衝突し続ければ、いずれはトンネル効果によりすり抜けられる。
しかし、確率が低すぎて宇宙の寿命が足りないのだ。
量子暗号とか通信とか、技術的・工学的なお話ならSFとして採用可能だとは思うけど。

あと、不老不死をSFで扱うならせめて老いの原因に関する仮説「エラー説」と「プログラム説」には触れてほしかった。
テロメアがどうとか言えばなんちゃってSF不老不死の完成というのもまた飽き飽きだが、この作品はそこにすら至らない。
作中で説明されている理屈はわからないでもない。
「死ななかった」から「死ななかった」というトートロジーめいたお話。
たしかレムで似たような話があった。
過去に遡り「自分の生まれてくる確率」を計算すると限りなく0というジョーク。
だが、「起こってしまったこと」が「起こる確率」は100%だ。
わかる、わかるってばよぉ……でも、具体的にはどういうことなんだってばよ?!
「エラー説」と「プログラム説」のどちらを採用するにせよそのへん絡んでくるはず。
それ以前に1500年生きたって設定になんの厚みも感じられない。
いままでいろんな歴史を見てきたというエピソードをもう少し入れてもいいと思った。


問題はそれだけじゃない。
テキストがひどい。
会話のテンポが悪すぎる。
「あ、ああ」「はい」「うん?」「はは」「そう」「ね?」「そうだな」「ごほん」
1ビットにも満たないような生返事が一行も占有するなんて!
リアルじゃ確かによくあることだが、小説ではノイズでしかない。
たとえばだ。
「え? ごめんもう一回言って」
リアルなら単に聞いてなかった、相手の発音が悪かったというだけかも知れない。
でも小説でいちいちこんなの再現したりはしない。
小説でこれをやるからにはなにかしら意味があると勘ぐってしまうのが普通だ。
わざわざテンポを殺いでいるのだから。
それをいちいちいちいち再現してるようなもの。そして明らかに意味はない。

会話のテンポが悪い原因は他にもある。
○○はにっこり微笑みながら言った?
これもまったくどうでもいい情報だ。
ご丁寧に毎度毎度、それやらないときが済まないのか。
話し手の表情なんてのは台詞の内容と文脈からこちらで脳内再生するんで逐一説明してくださらなくて結構。
明らかに不釣り合いの表情とか、そういうのを強調したいときだけで十分。
ページ数稼ぎなのだろうか? ラノベ並みの情報量の少なさ。
天気の話を延々とするみたいに会話が進まないからイライラして仕方がない。
このへんでなんど読破を挫折しそうになったか。
レビューでボロクソに叩きのめすことだけをモチベーションになんとか読み終えた。
レビューするからには、最後まで読むのが最低限の道理だからね……。

そして最後になるけど。
「ペンギン」の意味、欠片もないよね? なんの必然性もないよね?
最後の方の展開とかもうどうしようかと思ったよ。
宗教学的・民俗学的考証を並べられても困ったが、安心のクオリティ、そんなものは一切ありません!


SF設定。話の構成。展開。テキスト。オチ。
なにからなにまでパーフェクトに褒めるところがない。
大変な地雷を踏ませていただきました。


さよならペンギン (ハヤカワ文庫 JA オ 9-1) (ハヤカワ文庫JA)

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能力バトルものはもう書かなくていいかな、と思えるレベルの作品。

著者は「The 男爵ディーノ」というサイトの管理人でもあり、他にいくらか著作があるが、小説は本作が初だ。
著者のジャンプ感想は僕も毎週読んでおり、著者の趣味趣向やら既存作品の不満などよく知っているので、それが存分に活かされている本作は非常によく楽しめた。
いままで様々な能力バトルものを読んできて溜まりに貯まった「俺だったらこうするのに!」を結実させた作品なのだろう。
というか、僕自身が抱えていた様々な不満に応えてくれている。

「ご都合主義を排した」と謳うこの作品は、なるほどご都合主義的な展開はほとんど見られない。
ただ、一つ疑問が生じた。
こうまで見事な、収まりのいい相性パズルが一つの戦場に《都合よく》発生するものだろうか?
なんとまあ贅沢な疑問だろう。
能力バトルの醍醐味は相性パズル。それが見事すぎることに疑問を抱くとは!
この世界の「能力」は思春期の妄想が元となるため「性に関するものが多い」という設定もあるので、まあ許容の範囲内かな。
汎用性のない能力が他の能力との相性で有用になるのは……まったく無用に終わった人もいるからバランスはとれているか。


・セールスポイントの評価
本作では広告として5つのセールスポイントを挙げている。
これが成功しているかどうかの評価をしてみよう。
※ネタバレ部分は白で伏せ字

【セールスポイント1】
「みんな最善手を打つ」:よく分かんない理由で無駄死したり、よく分かんない理由で各個撃破されたりしません。登場人物はそれぞれの知力の範囲で、みんな最善手を打とうと頑張ります。生き死にの戦闘の最中に油断したり、自分の能力を説明したりしません。
うん!
一つ気になる点はあるけれど、登場人物の立場に立ってみれば仕方ないといえなくもなく。
というのも、携帯電話の件。これをもっと早く説明していれば……
まあ、予想し得ないことだから仕方ないことではあるんだけど。

【セールスポイント2】
「しっかり会議する」:なんとなくぶつかって、なんとなく戦ったりしません。戦う前には三陣営ともしっかり会議して、各々最良の戦術を模索します。
うん!
世の中には、会議らしきものをするにはするけど一向に話はまとまらず、結局「正面突破だ!」となり、「各個撃破だ!」と叫びながら自ら戦力を分散して各個撃破されにいく頭のかわいそうな人たちがいますからね。
また、本作では「感情論に一瞬流されそうになるも、当初の作戦通り最善手をとる決断をする」という展開がある。
これも、「優勢だったのに感情に流されて負けるor追い込まれる」というありがちな展開への見事なパロディでありアンチテーゼになっている。

【セールスポイント3】
「能力説明にウソはつきません」:能力は説明書きのままに機能します。どんな無体でムチャクチャな能力でも、基本的には例外なくその通りに機能します。大規模即死能力も相手が主人公だろうがネームドキャラだろうが当たりさえすれば確実に即死します。
うん!
ただ、即死攻撃ってのは一度は当たるものなんです。能力説明も兼ねて。
その説明がなされたあと二度目があるかというとまずない。
即死攻撃に対する警戒があるからこそではあるのだけれど。
でも、福本剣を落としちゃったあたりはちょっとご都合主義を感じた。

【セールスポイント4】
「ダメージは継続します」:大怪我を負ったはずのキャラクターがしばらくすると何故かピンピンしてるとか、そういうのはありません。ダメージはダメージとして残り、その後の行動に影響します。
う、うん……?
ちょっと邪賢王さん頑丈すぎませんか?
彼の能力のおかげでもあるんだけど、彼のダメージ量はいまいちイメージしづらかった。
確かに残っているといえば残ってるんだけど。
というか、ダメージを負って生き残るキャラというのがそもそもあまりいない。ほぼ即死だし。

【セールスポイント5】
「ばくはつします」:僕達がエンターテイメント作品に求めるものは何でしょうか? 
そう、エロと暴力と爆発です。本作には全てがあります。可能な限り爆発を盛り込みました。キャラクターは無駄に爆発して死にます。
うん!
初っ端から爆発してたね!
エログロは確かに溢れていた。が、脳食シーンに描写不足を感じた。
自粛させられた(?)というのはこのあたりだろうか。
まあ、エログロは要素の一つでしかないし、むしろギャグ扱いだから本気で読者をドン引きさせる濃密な描写は別に要らなかったのかなあとも思うから、別に問題はないのだけれど。


・学園自治法
現在日本の学校事情と、二次元学園バトルものにおける警察の不干渉へのパロディか。
本作もまた学園を舞台にした能力バトルものであるため、むやみに国家権力に介入されると困る。
それを「学園自治法」というトンデモ法で補完してしまう発想には驚かされた。
あまりに意味のわからない法律なのでマクガフィン的な扱いにするのかと思っていたら、パロディを交えた歴史設定による説明までされて丁寧な作品だなあと感心した。
多くの学園バトルものに欠けている社会的背景や政治的事情にも触れているのはGOOD。
この作品における「魔人」のような異能者がもし現代社会にいたら、と妄想するとき、まず気になるのは彼らの政治的な扱いになるのだけれど、多くの作品ではその点についてあまりに無関心だった。
作者もまた、同様の不満を抱えていたのだろう。と思う。


・視点移動の禁止
とある「小説の書き方」みたいなサイトやら本やらで「視点移動の禁止」というものがあった。
小説は漫画と異なり、むやみやたらに視点を切り替えるべきではない、と。
読者は登場人物の一人に感情移入して作品のを読むので、それがいきなり変わったら混乱する、と。
だけれど、そこに掲載されている例文を読んでも僕は一切違和感を覚えない。
「これって本当に問題なん?」と思いつつ、視点のことを念頭において様々な小説を読んでみたが、なるほど、同節内での唐突な視点移動はまず見られない。
「やっぱりまずいのかな~」と思っていたが、この作品では当たり前のように、漫画のような視点移動が見られる。
そこで違和感を感じたか? 引っかかるものを感じたか?
あまり感じなかったよ(´・ω・`)
しかし、唐突に「筆者」やら「読者諸兄」(サドの澁澤訳?)とか言われるとちょっと詰まってしまった。
視点がごちゃごちゃ混在しているので、地の文は雑然としている印象を持った。
それだけといえばそれだけだが、やはりできるかぎり避けるのがベターなのだろう。



【この先、DANGEROUS!ネタバレの補償なし】
以降はネタバレをほとんどまったく気にしない感想になります。伏せ字もありません。
本作を既読の方のみお読みください。

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レム曰く、多くのSF作家が様々な地球外生命とのコンタクトを想定しているが、そこにはすでに三つのステレオタイプができている。

①意志疎通ができる場合
②彼らが人類を侵略する場合
③彼らを人類が侵略する場合

この作品の場合①(+③)といったところか。
正確には侵略ではなく迫害ではあるけれど。
めちゃくちゃ面白かったからネタバレ満載で書きたいところではあるけれど、あえて抑えて書く。

エイリアン像はレムの言うステレオタイプに当てはまるような、割とありがちなものだ。
獰猛で、醜く、力が強く、猫缶が大好物。
ほとんど完全に人間で、ただエビの姿をしているだけ。言葉も普通に通じる。
ただ、描写のバランス感覚が見事だ。
彼らのテクノロジーは間違いなく人類より上だ。
人間の技術ではまず再現不可能な兵器の数々を所有している。
にもかかわらず、彼らは人類に支配されている。
こんな強力な武器があるのに? なんで? と、観ていれば疑問に思うはずだ。
それは彼らが地球に不時着してしまったせいによる。
彼らがいくら強い兵器を持っていると言っても、もともと地球に侵略を目的にしていたわけではない。
保有している兵器はせいぜい対人だ。
人類に戦車でも持ち出されたらあっという間に殲滅される。
数と地の利においても圧倒的に人類に劣る。
いくら人類が銃器などの強力な武器を保有していても、補給なしで野獣の住む荒野にでも遭難したらどうしようもないのと同じだ。
ある程度知能のあるチンパンジーなどは面白がって遺留品を漁り拳銃を玩具にするかも知れない。
『第9地区』はちょうどそんな感じの状況だ。

そして、さらに特筆すべきは、この作品の舞台がナイジェリアであるということだ。
宇宙人が地球に侵略しようとしたら、だいたい舞台はアメリカの都会、ニューヨーク当たりが狙われるだろう。
だが、彼らは侵略に来たのではない。
そして、恐るべきはエイリアンより遙かに野蛮なナイジェリアン達よ。

MNU※ VS エイリアン VS ナイジェリアン
(※作中に登場する国際機関。要は白人の体制側の組織)

なんという地獄絵図だ!

また、ドキュメンタリー風の演出も面白い。
徹頭徹尾それで通して欲しかった気もするが、全編通してそれなりにドキュメンタリーっぽいノリなのでまあよしとしよう。
後は少々納得のいかないご都合主義的な展開もいくらか見られたが、それを補ってあまりあるドラマが待っていたので良心的に目を瞑る。
初見でも扱えるエイリアンのインターフェイスまじぱねえ。

ふと思い出せば、『イリーガル・エイリアン』も状況的には近いわね。
特に意味もなくついでにオススメ。



イリーガル・エイリアン (ハヤカワ文庫SF)

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トンデモ本かと思って手に取ったらやっぱりトンデモだったー!

僕は生物の専門ではないので(高校の「生物」すら習ってない)不明な点も多いが、わかる範囲内だけでも誤りや突っ込みどころ多数。
ダーウィニズムを否定するというのだからどんなものかと思ってみたら……。
経歴を見ると医学博士。生物学者ですらない。
いやまて、偏見やレッテル貼りはよくない。
一つ一つ丁寧に疑問点や批判点を挙げておこう。


まず、第1章。
アザラシにひれはどうしてできたかという問題について二つのシナリオを紹介している。
①海付近で生活していたグループの中で、突然変異によりひれに近いなにかが発生した。彼らは海という未開拓のエリアで生活できるという利点を獲得したためにより繁殖し、だんだんひれが発達した。

②なんらかの地殻変動が起き、哺乳類グループの生息していた地域が海になった。多くは死んだが、一部が浅瀬を見つけて生き延び、試行錯誤のうちに魚を捕らえることを覚えて生き延びた。
著者は、①がダーウィニズムで②がラマルキズム、両者は決して相容れない説だとしている。
ここからいきなり疑問符が浮かぶ。
ダーウィニズムは必ずしも突然変異ありきではない。
②のように、まず環境の激変があり、自然淘汰によってアザラシ的な哺乳類が生き延びた、というシナリオも考えられる。
地理の隔絶が種分化を促すというのはダーウィニズムの基本の一つだ。
ダーウィニズムとラマルキズムの違いを示す例としては不適当すぎる。
以後も著者は何度かダーウィニズムに喧嘩を売るが、いずれも自然淘汰のことがすっぽり忘れ去られ、突然変異のことしか頭にない。
ここでちょっと考えていただきたい。突然変異というのは、いいかえれば奇形である。奇形の子どもが突然生まれても、親がうまく育てられずに死んでしまうか、あるいははなから見放されてしまうかであることは、犬や猫を飼った経験のある方はよくご存じだと思う。こんなことで本当に進化が起こるのだろうか。(p.31)
進化をダーウィニズムで説明するならば、代謝のシステムが変わるという生物にとってこの上なく重大なことが、突然変異で起こることになってしまうのである。代謝の変化が突然変異で起こるメカニズムを想像することは不可能である。(p.72)
突然変異がおきて軟骨が硬骨になる。しかし、なぜこんなに目的にかなって変化が起こるような突然変異が発生するかということについては、ダーウィニズムは黙して語らない。(p.74)
いや、あんたそりゃ、突然変異だけじゃ説明できるわけありませんって。
ダーウィニズムには自然淘汰という概念もありましてね?
読んでいると、どうにも突然変異というものを、一世代でまったく異なる環境に完全に適応できるほどの大きな変異であると勘違いしている節がある。
あー、ドーキンスもそういう勘違いしてる人がいるって批判してたなあ……。
実際には、進化に関わるような突然変異は逆説的に非常に小さなものでしかあり得ない。
ちなみに第1章のタイトルは『「突然変異」と「自然淘汰」で進化は説明できない』。
あのー、「自然淘汰」はどちらへ?
たとえ突然変異が起こったとしても、形質の変異に結びつくようなことはほとんどありえないという実例を紹介しよう。1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発事故を覚えておられるだろうか。(中略)強い放射線にさらされているネズミには、一年間で一億年分くらいの突然変異が現実に発生しているが、これらは次々に修復されて、このネズミはまったく普通に生活しているという。(p.34)
はい、それが自然淘汰ですね。
「次々に修復」と当たり前にいっているが、どのようなメカニズムで修復されたと思っているのか。
なんでさっきから自然淘汰のこと無視するん?
進化とは、じつは非常に場当たり的で、必ずしも(人間の価値観で)前に進んでいるだけとはいえないようだ。(p.87)
自然淘汰ガン無視でござる。
後者は賛成だが、そんな当たり前のことをなにドヤ顔で……。


この時点で読むのをやめてもよかったのだが、逆に面白くなってきたので続けよう。
これまでは、単細胞生物の細菌から多細胞生物までが同列に扱われてきたうえに、植物と動物も完全にごちゃまぜになって進化が考えられてきた。(中略)ダーウィンがおかした大きなまちがいも、彼が動物も植物もなにもかもごちゃまぜにして進化を論じた点である。このことは、科学的な方法として正しくないだけでなく、結果的に進化の本質を見落とすことにつながってしまった。(p.38-40)
なにを言ってるのかわからない……。
地球上のすべての生物にはDNAという共通する要素がある。
植物だろうが動物だろうが地球外生命体だろうが適用できる普遍性こそがダーウィニズムだ。
特定の種類の動物、この著者が取り上げるのは脊椎動物だが、それだけの進化を論じても、じゃあそれ以外の生物はどう説明するの? という話になる。
もちろん本書はその点について黙して語らない。
くわしくは著者の具体的な実験と説を見て考えよう。

第2章ではサメについての実験が紹介されている。
サメを麻酔海水につけるとのたうち回って陸上に逃げるらしい。
のたうち回ると血圧が上がり、エラで空気呼吸ができるようになる。
何回も繰り返すと、最初は20分で息絶え絶えだったサメが、1時間陸上に放っても平気になる。
エラの一部が袋状になって肺になるのは時間の問題である。
ヒトも、はじめは1分息を止めるだけで苦しそうにするが、訓練次第で5分は止められるようになる。やがて息をしなくても生きられるようになるのは時間の問題である。

馬鹿な。
本気で正気を疑った。
いや、本文に書いてあるのはもちろんサメのくだりだけね。
他にも血流が多いと肝臓に埋め込んだ軟骨が硬骨になってしまうんだとか。
専門的なことはよくわからないけれど、要約すると訓練次第でサメが哺乳類的なものを獲得するんだと。
なるほど、それは興味深い実験ですね。
で、それが進化とどう関係するんで……?
本章の考察で、脊椎動物の進化にかぎって考えれば、それはダーウィン的「進化の総合説」によって突然変異と自然淘汰で説明されるものではなく、完全に重力を中心とする生体力学的な対応によって起こることをおわかり頂けたと思う。(p99)
おわかりいただけませんでした!

で、次章にてようやく個体の変化が次の世代に伝わるメカニズムが語られるらしい。
重要なのはそこですから。混乱を避けるために触れなかった?
触れなかったせいで混乱しました!
いったいどんな読者を想定しているのやら。


第3章。
いったいどんなメカニズムが語れるのかな。ワクワク。
? ……?? ……!??
さっぱりわからん。

わからないなりに要点だけかいつまむと、「獲得形質の遺伝」についてはさすがの著者でも否定するらしい。
だが、「行動様式」が伝われば遺伝によらずとも獲得形質は次代に伝わる。
なるほど、つまりはミームというわけか。
子が親の行動を真似るというのは人間にかぎらず様々な動物でも観察できる。
つまりだ。あるサメがのたうち回って1時間陸上で生きられるようになった!
その子も親の真似をして1時間陸上で生きられるようになった!
さらにその子も親の真似をして1時間陸上で生きられるようになった!
さらにさらに(ry

で、いつになったらサメは陸上に進出できるんですかね?
「行動様式」が伝わってもそれは0からのスタートでしょ? 強くてニューゲームちゃいますやろ? 「次の世代」には伝わるかも知れないけど「次の次の世代」にはどう伝わるんです? 同じようにしか伝わりませんよね? 繰り返すうちに2時間陸生できるようにはなりませんよね? それとも僕がなにか読み違いしてるんですか?
……なにがなんだかわからない。

続けて「ワイスマン実験」批判。これもまるで意味がわからない。
ワイスマン実験とは、獲得形質の遺伝を否定したとされる有名な実験で、22代・1600匹のネズミの尾を切り続け、それが次代に遺伝しないことを証明した実験だ。
著者はこの実験を「二重の意味で愚か」であると批判している。
①ラマルクの「第二法則」は一般に「獲得形質の遺伝」とされているが、よく読めば必ずしも「遺伝」とはかぎらない。つまり、「行動様式」によって次代に伝わることもありうるのに、ワイスマンはその点を誤解している。

②ネズミにとって尾が切られることは獲得形質でもなんでもなく、ただの災難である。獲得していないものが次代に伝わるわけがない。
意味がわからないと思うが、僕もわからない。
まず①だが、ラマルクについては僕も詳しくないのでなんともいえない。
だが、ワイスマンがラマルクを誤解していたからといって実験結果が変わるわけではない。
「獲得形質の遺伝の否定」、ワイスマン実験の意味はそれだ。
この点については、著者も「獲得形質が次代に遺伝することはあり得ない」(p.106)ハッキリ書いている。
ちなみに第3章のタイトルが『「遺伝」によらずとも変化は次代につながる』だ。
著者はなぜワイスマン実験を否定したかったのだろう。
著者の主張とワイスマン実験は別に矛盾しないはずだ。
実験は正しいがこんな実験に意味はない! とでもいいたいのだろうか?

そして②について。
サメにとっても麻酔海水に浸けられるのはただの災難でしかないだろうに。
なになに、サメは陸上にあがって1時間も無事でいられる形質を獲得した?
では、獲得形質と怪我をどう区別するのか。

わかりやすいようヒトの例で考えよう。
筋肉トレーニングとは、人為的に筋肉を痛めつける行為だ。
痛めつけられることで超回復が起こり、何度も繰り返すうちに筋肉が肥大化する。
これを「獲得形質」であると定義することには著者も納得してくれるだろう。
では、もう一例。事故によって指がごっそりもげた。
放っておくと、皮膚が傷口を覆うように再生し、指は短くなったが傷口はふさがった。
さて、筋トレと怪我の再生との差異はなにか。
怪我が起こり、それが回復した。どちらも同じことだ。
前者は結果的に肥大化し、後者は指が短くなった。
その違いはあるが、両者をどう区別するのか。
尻尾を切られたマウスでも同様のことが起こったはずだ。
傷を再生し、なんらかの形質を獲得したはずだ。

視点を変えよう。
サメはなぜ陸上でも1時間生きられる形質を獲得できたのか。
著者は「ウォルフの法則」を根拠に「当然」だとしている。
機能が変わると、形もその機能の変化にしたがって変化する。
いや、それこそ経験則ですやん。
ダーウィニズムを「論」にすぎず、「法則」にはほど遠いと批判しておきながら「ウォルフの法則」という経験則にすぎないものを支持するとはいやはや。
ダーウィニズム的に答えるならこうだ。
陸上に打ち上げられるような経験は滅多にないが、何度も起こるようならその環境にある程度適応できた方が生存に有利だったからだ。
筋肉トレーニングもそうだ。痛めつけるほど何度も使う部位なら、超回復により肥大化させた方がいい。その方が明らかに生存に有利だ。
これが突然変異と自然淘汰によって生まれたシステムだ。


まとめよう。
この著者はいったいなにが主張したいのか。
まず本書のタイトルにある「重力」。
本記事ではここまで無視してきたが、もちろん本書では重力と進化の関係について様々な例を書いている。
たとえば、重力によって個体の骨格や形が変化して「ほら、ホヤの幼生が魚っぽくなるでしょ?」というような例が紹介されていたりする。
サメの例も、水の中から陸上に上げられ見かけ上重力が6倍になったことへの適応だとしてしている。
が、そもそも獲得形質が遺伝しないことには進化とは関係しようがない。
よってこの記事では無視してきた。
進化とは無関係のレベルでしか「重力」は扱われていないからだ。
仮に重力が進化に関わるなら、重力はすべての生物に平等にかかる力であるため、生物の多様性が説明できない、という反論もできる。

また、著者がダーウィニズムを否定する論拠としては、①突然変異体はふつうすぐ死ぬ、②著者の貧弱な想像力では進化に関わるとは思えない、という二点である。
いずれもダーウィニズムを根本から誤解しているのと、自然淘汰のことをすっぽり忘れているにすぎない。
そして「我々は遺伝子を過大評価しすぎてきた」というようなことも書いている。
遺伝によらずとも、行動様式が伝わることで形質もまた次代に伝わることがある。
だが、次の次の世代にどのように伝わるのかについては本書は黙して語らない。


以上、非常にキチガイじみていて面白い本でした。
できるかぎり本書の狂気を伝えようと長々と書きましたが、これだけだとなにがなんだかわからないことでしょう。
そういう方は自らの手で本書を手に取ってみるのはいかがでしょうか。
きっとなにがなんだかわからないはずです。

生物は重力が進化させた (ブルーバックス)

こんなトンデモ本読んでられるか! 俺はまともな進化生物学へ帰る!
という方は、以下の本がオススメです。

利己的な遺伝子 <増補新装版>
盲目の時計職人
進化の存在証明

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プロフィール
HN:
饗庭淵
性別:
男性
自己紹介:
読みは「あえばふち」だよ!
SFが好きです。
公開中のゲーム作品
ロリ巨乳の里にて
パイズリセックスRPG。

幽獄の14日間
リソース管理型脱出RPG。

カリスは影差す迷宮で
仲間を弱らせて殺す遺跡探索RPG。

黒先輩と黒屋敷の闇に迷わない
探索ホラー風セクハラゲーム。

英雄候補者たち
特に変哲のない短編RPG。

Merry X'mas you, for your closed world, and you...
メタメタフィクションノベルゲーム。

公開中の小説作品
創死者の潰えた夢
世界を支配するはずだった黒幕の野望は、隕石によって粉砕された。

或る魔王軍の遍歴
「主人公補正」によって哀れにも敗れていくすべての悪役に捧ぐ。

ドアによる未来
「どこでもドア」はいかに世界に影響を及ぼし、人類になにをもたらすのか。

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