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writer:饗庭淵 2024-11-23(Sat)  
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『生物は重力が進化させた』
writer:饗庭淵 2011-01-23(Sun) レビュー・感想・紹介 
トンデモ本かと思って手に取ったらやっぱりトンデモだったー!

僕は生物の専門ではないので(高校の「生物」すら習ってない)不明な点も多いが、わかる範囲内だけでも誤りや突っ込みどころ多数。
ダーウィニズムを否定するというのだからどんなものかと思ってみたら……。
経歴を見ると医学博士。生物学者ですらない。
いやまて、偏見やレッテル貼りはよくない。
一つ一つ丁寧に疑問点や批判点を挙げておこう。


まず、第1章。
アザラシにひれはどうしてできたかという問題について二つのシナリオを紹介している。
①海付近で生活していたグループの中で、突然変異によりひれに近いなにかが発生した。彼らは海という未開拓のエリアで生活できるという利点を獲得したためにより繁殖し、だんだんひれが発達した。

②なんらかの地殻変動が起き、哺乳類グループの生息していた地域が海になった。多くは死んだが、一部が浅瀬を見つけて生き延び、試行錯誤のうちに魚を捕らえることを覚えて生き延びた。
著者は、①がダーウィニズムで②がラマルキズム、両者は決して相容れない説だとしている。
ここからいきなり疑問符が浮かぶ。
ダーウィニズムは必ずしも突然変異ありきではない。
②のように、まず環境の激変があり、自然淘汰によってアザラシ的な哺乳類が生き延びた、というシナリオも考えられる。
地理の隔絶が種分化を促すというのはダーウィニズムの基本の一つだ。
ダーウィニズムとラマルキズムの違いを示す例としては不適当すぎる。
以後も著者は何度かダーウィニズムに喧嘩を売るが、いずれも自然淘汰のことがすっぽり忘れ去られ、突然変異のことしか頭にない。
ここでちょっと考えていただきたい。突然変異というのは、いいかえれば奇形である。奇形の子どもが突然生まれても、親がうまく育てられずに死んでしまうか、あるいははなから見放されてしまうかであることは、犬や猫を飼った経験のある方はよくご存じだと思う。こんなことで本当に進化が起こるのだろうか。(p.31)
進化をダーウィニズムで説明するならば、代謝のシステムが変わるという生物にとってこの上なく重大なことが、突然変異で起こることになってしまうのである。代謝の変化が突然変異で起こるメカニズムを想像することは不可能である。(p.72)
突然変異がおきて軟骨が硬骨になる。しかし、なぜこんなに目的にかなって変化が起こるような突然変異が発生するかということについては、ダーウィニズムは黙して語らない。(p.74)
いや、あんたそりゃ、突然変異だけじゃ説明できるわけありませんって。
ダーウィニズムには自然淘汰という概念もありましてね?
読んでいると、どうにも突然変異というものを、一世代でまったく異なる環境に完全に適応できるほどの大きな変異であると勘違いしている節がある。
あー、ドーキンスもそういう勘違いしてる人がいるって批判してたなあ……。
実際には、進化に関わるような突然変異は逆説的に非常に小さなものでしかあり得ない。
ちなみに第1章のタイトルは『「突然変異」と「自然淘汰」で進化は説明できない』。
あのー、「自然淘汰」はどちらへ?
たとえ突然変異が起こったとしても、形質の変異に結びつくようなことはほとんどありえないという実例を紹介しよう。1986年に起きた旧ソ連のチェルノブイリ原発事故を覚えておられるだろうか。(中略)強い放射線にさらされているネズミには、一年間で一億年分くらいの突然変異が現実に発生しているが、これらは次々に修復されて、このネズミはまったく普通に生活しているという。(p.34)
はい、それが自然淘汰ですね。
「次々に修復」と当たり前にいっているが、どのようなメカニズムで修復されたと思っているのか。
なんでさっきから自然淘汰のこと無視するん?
進化とは、じつは非常に場当たり的で、必ずしも(人間の価値観で)前に進んでいるだけとはいえないようだ。(p.87)
自然淘汰ガン無視でござる。
後者は賛成だが、そんな当たり前のことをなにドヤ顔で……。


この時点で読むのをやめてもよかったのだが、逆に面白くなってきたので続けよう。
これまでは、単細胞生物の細菌から多細胞生物までが同列に扱われてきたうえに、植物と動物も完全にごちゃまぜになって進化が考えられてきた。(中略)ダーウィンがおかした大きなまちがいも、彼が動物も植物もなにもかもごちゃまぜにして進化を論じた点である。このことは、科学的な方法として正しくないだけでなく、結果的に進化の本質を見落とすことにつながってしまった。(p.38-40)
なにを言ってるのかわからない……。
地球上のすべての生物にはDNAという共通する要素がある。
植物だろうが動物だろうが地球外生命体だろうが適用できる普遍性こそがダーウィニズムだ。
特定の種類の動物、この著者が取り上げるのは脊椎動物だが、それだけの進化を論じても、じゃあそれ以外の生物はどう説明するの? という話になる。
もちろん本書はその点について黙して語らない。
くわしくは著者の具体的な実験と説を見て考えよう。

第2章ではサメについての実験が紹介されている。
サメを麻酔海水につけるとのたうち回って陸上に逃げるらしい。
のたうち回ると血圧が上がり、エラで空気呼吸ができるようになる。
何回も繰り返すと、最初は20分で息絶え絶えだったサメが、1時間陸上に放っても平気になる。
エラの一部が袋状になって肺になるのは時間の問題である。
ヒトも、はじめは1分息を止めるだけで苦しそうにするが、訓練次第で5分は止められるようになる。やがて息をしなくても生きられるようになるのは時間の問題である。

馬鹿な。
本気で正気を疑った。
いや、本文に書いてあるのはもちろんサメのくだりだけね。
他にも血流が多いと肝臓に埋め込んだ軟骨が硬骨になってしまうんだとか。
専門的なことはよくわからないけれど、要約すると訓練次第でサメが哺乳類的なものを獲得するんだと。
なるほど、それは興味深い実験ですね。
で、それが進化とどう関係するんで……?
本章の考察で、脊椎動物の進化にかぎって考えれば、それはダーウィン的「進化の総合説」によって突然変異と自然淘汰で説明されるものではなく、完全に重力を中心とする生体力学的な対応によって起こることをおわかり頂けたと思う。(p99)
おわかりいただけませんでした!

で、次章にてようやく個体の変化が次の世代に伝わるメカニズムが語られるらしい。
重要なのはそこですから。混乱を避けるために触れなかった?
触れなかったせいで混乱しました!
いったいどんな読者を想定しているのやら。


第3章。
いったいどんなメカニズムが語れるのかな。ワクワク。
? ……?? ……!??
さっぱりわからん。

わからないなりに要点だけかいつまむと、「獲得形質の遺伝」についてはさすがの著者でも否定するらしい。
だが、「行動様式」が伝われば遺伝によらずとも獲得形質は次代に伝わる。
なるほど、つまりはミームというわけか。
子が親の行動を真似るというのは人間にかぎらず様々な動物でも観察できる。
つまりだ。あるサメがのたうち回って1時間陸上で生きられるようになった!
その子も親の真似をして1時間陸上で生きられるようになった!
さらにその子も親の真似をして1時間陸上で生きられるようになった!
さらにさらに(ry

で、いつになったらサメは陸上に進出できるんですかね?
「行動様式」が伝わってもそれは0からのスタートでしょ? 強くてニューゲームちゃいますやろ? 「次の世代」には伝わるかも知れないけど「次の次の世代」にはどう伝わるんです? 同じようにしか伝わりませんよね? 繰り返すうちに2時間陸生できるようにはなりませんよね? それとも僕がなにか読み違いしてるんですか?
……なにがなんだかわからない。

続けて「ワイスマン実験」批判。これもまるで意味がわからない。
ワイスマン実験とは、獲得形質の遺伝を否定したとされる有名な実験で、22代・1600匹のネズミの尾を切り続け、それが次代に遺伝しないことを証明した実験だ。
著者はこの実験を「二重の意味で愚か」であると批判している。
①ラマルクの「第二法則」は一般に「獲得形質の遺伝」とされているが、よく読めば必ずしも「遺伝」とはかぎらない。つまり、「行動様式」によって次代に伝わることもありうるのに、ワイスマンはその点を誤解している。

②ネズミにとって尾が切られることは獲得形質でもなんでもなく、ただの災難である。獲得していないものが次代に伝わるわけがない。
意味がわからないと思うが、僕もわからない。
まず①だが、ラマルクについては僕も詳しくないのでなんともいえない。
だが、ワイスマンがラマルクを誤解していたからといって実験結果が変わるわけではない。
「獲得形質の遺伝の否定」、ワイスマン実験の意味はそれだ。
この点については、著者も「獲得形質が次代に遺伝することはあり得ない」(p.106)ハッキリ書いている。
ちなみに第3章のタイトルが『「遺伝」によらずとも変化は次代につながる』だ。
著者はなぜワイスマン実験を否定したかったのだろう。
著者の主張とワイスマン実験は別に矛盾しないはずだ。
実験は正しいがこんな実験に意味はない! とでもいいたいのだろうか?

そして②について。
サメにとっても麻酔海水に浸けられるのはただの災難でしかないだろうに。
なになに、サメは陸上にあがって1時間も無事でいられる形質を獲得した?
では、獲得形質と怪我をどう区別するのか。

わかりやすいようヒトの例で考えよう。
筋肉トレーニングとは、人為的に筋肉を痛めつける行為だ。
痛めつけられることで超回復が起こり、何度も繰り返すうちに筋肉が肥大化する。
これを「獲得形質」であると定義することには著者も納得してくれるだろう。
では、もう一例。事故によって指がごっそりもげた。
放っておくと、皮膚が傷口を覆うように再生し、指は短くなったが傷口はふさがった。
さて、筋トレと怪我の再生との差異はなにか。
怪我が起こり、それが回復した。どちらも同じことだ。
前者は結果的に肥大化し、後者は指が短くなった。
その違いはあるが、両者をどう区別するのか。
尻尾を切られたマウスでも同様のことが起こったはずだ。
傷を再生し、なんらかの形質を獲得したはずだ。

視点を変えよう。
サメはなぜ陸上でも1時間生きられる形質を獲得できたのか。
著者は「ウォルフの法則」を根拠に「当然」だとしている。
機能が変わると、形もその機能の変化にしたがって変化する。
いや、それこそ経験則ですやん。
ダーウィニズムを「論」にすぎず、「法則」にはほど遠いと批判しておきながら「ウォルフの法則」という経験則にすぎないものを支持するとはいやはや。
ダーウィニズム的に答えるならこうだ。
陸上に打ち上げられるような経験は滅多にないが、何度も起こるようならその環境にある程度適応できた方が生存に有利だったからだ。
筋肉トレーニングもそうだ。痛めつけるほど何度も使う部位なら、超回復により肥大化させた方がいい。その方が明らかに生存に有利だ。
これが突然変異と自然淘汰によって生まれたシステムだ。


まとめよう。
この著者はいったいなにが主張したいのか。
まず本書のタイトルにある「重力」。
本記事ではここまで無視してきたが、もちろん本書では重力と進化の関係について様々な例を書いている。
たとえば、重力によって個体の骨格や形が変化して「ほら、ホヤの幼生が魚っぽくなるでしょ?」というような例が紹介されていたりする。
サメの例も、水の中から陸上に上げられ見かけ上重力が6倍になったことへの適応だとしてしている。
が、そもそも獲得形質が遺伝しないことには進化とは関係しようがない。
よってこの記事では無視してきた。
進化とは無関係のレベルでしか「重力」は扱われていないからだ。
仮に重力が進化に関わるなら、重力はすべての生物に平等にかかる力であるため、生物の多様性が説明できない、という反論もできる。

また、著者がダーウィニズムを否定する論拠としては、①突然変異体はふつうすぐ死ぬ、②著者の貧弱な想像力では進化に関わるとは思えない、という二点である。
いずれもダーウィニズムを根本から誤解しているのと、自然淘汰のことをすっぽり忘れているにすぎない。
そして「我々は遺伝子を過大評価しすぎてきた」というようなことも書いている。
遺伝によらずとも、行動様式が伝わることで形質もまた次代に伝わることがある。
だが、次の次の世代にどのように伝わるのかについては本書は黙して語らない。


以上、非常にキチガイじみていて面白い本でした。
できるかぎり本書の狂気を伝えようと長々と書きましたが、これだけだとなにがなんだかわからないことでしょう。
そういう方は自らの手で本書を手に取ってみるのはいかがでしょうか。
きっとなにがなんだかわからないはずです。

生物は重力が進化させた (ブルーバックス)

こんなトンデモ本読んでられるか! 俺はまともな進化生物学へ帰る!
という方は、以下の本がオススメです。

利己的な遺伝子 <増補新装版>
盲目の時計職人
進化の存在証明

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