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writer:饗庭淵 2024-11-23(Sat)  
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『戦闘破壊学園ダンゲロス』
writer:饗庭淵 2011-02-06(Sun) レビュー・感想・紹介 
能力バトルものはもう書かなくていいかな、と思えるレベルの作品。

著者は「The 男爵ディーノ」というサイトの管理人でもあり、他にいくらか著作があるが、小説は本作が初だ。
著者のジャンプ感想は僕も毎週読んでおり、著者の趣味趣向やら既存作品の不満などよく知っているので、それが存分に活かされている本作は非常によく楽しめた。
いままで様々な能力バトルものを読んできて溜まりに貯まった「俺だったらこうするのに!」を結実させた作品なのだろう。
というか、僕自身が抱えていた様々な不満に応えてくれている。

「ご都合主義を排した」と謳うこの作品は、なるほどご都合主義的な展開はほとんど見られない。
ただ、一つ疑問が生じた。
こうまで見事な、収まりのいい相性パズルが一つの戦場に《都合よく》発生するものだろうか?
なんとまあ贅沢な疑問だろう。
能力バトルの醍醐味は相性パズル。それが見事すぎることに疑問を抱くとは!
この世界の「能力」は思春期の妄想が元となるため「性に関するものが多い」という設定もあるので、まあ許容の範囲内かな。
汎用性のない能力が他の能力との相性で有用になるのは……まったく無用に終わった人もいるからバランスはとれているか。


・セールスポイントの評価
本作では広告として5つのセールスポイントを挙げている。
これが成功しているかどうかの評価をしてみよう。
※ネタバレ部分は白で伏せ字

【セールスポイント1】
「みんな最善手を打つ」:よく分かんない理由で無駄死したり、よく分かんない理由で各個撃破されたりしません。登場人物はそれぞれの知力の範囲で、みんな最善手を打とうと頑張ります。生き死にの戦闘の最中に油断したり、自分の能力を説明したりしません。
うん!
一つ気になる点はあるけれど、登場人物の立場に立ってみれば仕方ないといえなくもなく。
というのも、携帯電話の件。これをもっと早く説明していれば……
まあ、予想し得ないことだから仕方ないことではあるんだけど。

【セールスポイント2】
「しっかり会議する」:なんとなくぶつかって、なんとなく戦ったりしません。戦う前には三陣営ともしっかり会議して、各々最良の戦術を模索します。
うん!
世の中には、会議らしきものをするにはするけど一向に話はまとまらず、結局「正面突破だ!」となり、「各個撃破だ!」と叫びながら自ら戦力を分散して各個撃破されにいく頭のかわいそうな人たちがいますからね。
また、本作では「感情論に一瞬流されそうになるも、当初の作戦通り最善手をとる決断をする」という展開がある。
これも、「優勢だったのに感情に流されて負けるor追い込まれる」というありがちな展開への見事なパロディでありアンチテーゼになっている。

【セールスポイント3】
「能力説明にウソはつきません」:能力は説明書きのままに機能します。どんな無体でムチャクチャな能力でも、基本的には例外なくその通りに機能します。大規模即死能力も相手が主人公だろうがネームドキャラだろうが当たりさえすれば確実に即死します。
うん!
ただ、即死攻撃ってのは一度は当たるものなんです。能力説明も兼ねて。
その説明がなされたあと二度目があるかというとまずない。
即死攻撃に対する警戒があるからこそではあるのだけれど。
でも、福本剣を落としちゃったあたりはちょっとご都合主義を感じた。

【セールスポイント4】
「ダメージは継続します」:大怪我を負ったはずのキャラクターがしばらくすると何故かピンピンしてるとか、そういうのはありません。ダメージはダメージとして残り、その後の行動に影響します。
う、うん……?
ちょっと邪賢王さん頑丈すぎませんか?
彼の能力のおかげでもあるんだけど、彼のダメージ量はいまいちイメージしづらかった。
確かに残っているといえば残ってるんだけど。
というか、ダメージを負って生き残るキャラというのがそもそもあまりいない。ほぼ即死だし。

【セールスポイント5】
「ばくはつします」:僕達がエンターテイメント作品に求めるものは何でしょうか? 
そう、エロと暴力と爆発です。本作には全てがあります。可能な限り爆発を盛り込みました。キャラクターは無駄に爆発して死にます。
うん!
初っ端から爆発してたね!
エログロは確かに溢れていた。が、脳食シーンに描写不足を感じた。
自粛させられた(?)というのはこのあたりだろうか。
まあ、エログロは要素の一つでしかないし、むしろギャグ扱いだから本気で読者をドン引きさせる濃密な描写は別に要らなかったのかなあとも思うから、別に問題はないのだけれど。


・学園自治法
現在日本の学校事情と、二次元学園バトルものにおける警察の不干渉へのパロディか。
本作もまた学園を舞台にした能力バトルものであるため、むやみに国家権力に介入されると困る。
それを「学園自治法」というトンデモ法で補完してしまう発想には驚かされた。
あまりに意味のわからない法律なのでマクガフィン的な扱いにするのかと思っていたら、パロディを交えた歴史設定による説明までされて丁寧な作品だなあと感心した。
多くの学園バトルものに欠けている社会的背景や政治的事情にも触れているのはGOOD。
この作品における「魔人」のような異能者がもし現代社会にいたら、と妄想するとき、まず気になるのは彼らの政治的な扱いになるのだけれど、多くの作品ではその点についてあまりに無関心だった。
作者もまた、同様の不満を抱えていたのだろう。と思う。


・視点移動の禁止
とある「小説の書き方」みたいなサイトやら本やらで「視点移動の禁止」というものがあった。
小説は漫画と異なり、むやみやたらに視点を切り替えるべきではない、と。
読者は登場人物の一人に感情移入して作品のを読むので、それがいきなり変わったら混乱する、と。
だけれど、そこに掲載されている例文を読んでも僕は一切違和感を覚えない。
「これって本当に問題なん?」と思いつつ、視点のことを念頭において様々な小説を読んでみたが、なるほど、同節内での唐突な視点移動はまず見られない。
「やっぱりまずいのかな~」と思っていたが、この作品では当たり前のように、漫画のような視点移動が見られる。
そこで違和感を感じたか? 引っかかるものを感じたか?
あまり感じなかったよ(´・ω・`)
しかし、唐突に「筆者」やら「読者諸兄」(サドの澁澤訳?)とか言われるとちょっと詰まってしまった。
視点がごちゃごちゃ混在しているので、地の文は雑然としている印象を持った。
それだけといえばそれだけだが、やはりできるかぎり避けるのがベターなのだろう。



【この先、DANGEROUS!ネタバレの補償なし】
以降はネタバレをほとんどまったく気にしない感想になります。伏せ字もありません。
本作を既読の方のみお読みください。

拍手



・正義VS正義
「正義VS悪」というような単純な勧善懲悪の構図は避けたかったのだろう。
一般に「悪」とされる番長グループが実は「いい人」の集まりであり、「正義の味方」として祭られる生徒会がやばい計画を企んでいたり、だけれどもその生徒会にも言い分があり、……
といった具合に、それぞれの勢力を多角的に描いている。
ただ、僕としてはこの一見「複雑な対立関係」ともいえる「正義VS正義」も食傷気味。
「正義VS正義」がやりたければ、一方に「歪んだ正義」を配置し、一方に「真っ当ではあるが決定力に欠ける正義」を配置すればいい。
パッと思いついたのが『銀河英雄伝説』で、この場合ラインハルトが前者、ヤンが後者に当たる。
だいたい後者の方が長期的には正しく、「専制主義VS民主主義」にも置き換えられる。
「正義VS正義」という構図で「どちらが正しいか断言できない」という状況を設定することは難しく、まず不可能だろう。
正義同士が対立することなどということがまずあり得ないからだ。
正義が敵対する相手は必ず悪であり、互いに「歪み」や「決定力に欠ける」点を批判の対象とするわけで、「悪の混在した正義」同士の対立というのが正しい。
「正義VS正義」というのは原理的に成立し得ない。
同組織内での意見の食い違い・利権争いレベルならともかく、殺し合いレベルにまで発展する対立になるためにはどうしても「歪んだ正義」を配置せざるを得ない。
で、その「歪んだ正義」を信じる登場人物の存在が、対立関係をつくるために設定されたような、どうにも不自然な存在に見えてしまう。

どちらかといえば僕は「悪VS悪」が見てみたい。
だが、こちらの方がよほど難易度は高いだろう。
悪同士で利害が対立するという状況が想定しづらいからだ。
ただ、だからこそ見てみたい!
どっちが勝っても世界は終わる。どちらも応援できない。
そんな絶望的で甘美なシチュエーション。


・「すべて○○の陰謀だったんだよ!」
このたぐいの展開には、驚きもあるし、ラスボスが明確になるという利点もあるが、構図が一気に単純化してしまうという欠点もある。
また、あとから説明されれば納得するしかないが、「都合よくいきすぎている感」が拭えない。
本作ではこの点を「転校生」というイレギュラーによって補っていた。
彼らにもまた予想し得ない事態があった。
ただ、この時点で生徒会も番長も戦力をほぼ失っているというのがなんとも惜しい(四つの勢力が入り乱れるカオスな状況というのも見てみたかった)。
もちろん、魔人中隊はその状況を待っていたのだから設定的には矛盾はないのだが。

勢力図が三つ巴の時点で残りの二つの潰し合いを待つというのは定石で、そのへんは緊張感が出てた。
しかし、両勢力のトップ、邪賢王とド正義にそこまで威厳を感じなかったのが残念。
どちらも一定の常識をわきまえていたせいだろうか。本編での扱いのせいだろうか。


・魔人中隊
「魔人中隊」の登場には燃えた。
「学園自治法」というご都合主義的な法律を設定しつつ、それを破るというのはやはり楽しい!
そーなんですよ、いくらルールが定められていても、それが人によって定められたものなら破られることもあるんですよ。
複雑な状況描写をめんどくさがって、国家権力を介入させたくないがために「ルールさえ設定してしまえばあと考えなくていいや」っていう作品がなんと多いことか。
この作品はホントに僕が抱えていたさまざまな不満に応えてくれる。
ただ、やはり小銃の威力を過小評価してるのは気になる。
いくら魔人の肉体でも、いくらあの能力でも、人間大の質量の物体なら結果は大して変わらない。
なんなら50口径のアンチマテリアルでも持ってくればよかった。一撃で真っ二つだ。
いやいや、 7,62mm弾で十分だろ常識的に考えて……
他にもスタングレネードとか持ってくればよかったのに。
現代兵器が脅威として描かれているのは評価できるが、まだ現代兵器舐めてる。


・「転校生」の設定
「無限の攻撃力と無限の防御力」。
元ネタがゲームであることもあり、まんまゲームみたいな設定だけれど、これはちょっとよくわからない点が多い。
まず、「転校生が転校生を殴ったらどーなるの?」。
いわゆる「矛盾」が発生するかといえばそうではなく、転校生は転校生を傷つけられる「設定」らしい。
それはいいとして、「転校生でも病気にかかる」設定。
病原菌やウイルスに対する「防御力」は無限ではない?
「防御力」というのは皮膚にかぎるということだろうか?
あるいは人間の悪意に対して?
事故や自然災害なら死ぬこともあるのだろうか?
たとえば転けるとダメージを受けるんだっけ?
元ネタのゲームをよく知らないのでどう扱われているのかわからないが、「論理能力以外に対しては無敵」くらいの設定でよかったのではないかと思う。
「病気」で死ぬこともあるというのはよくわからない。サイヤ人みたいによくわからない。


・死にまくるキャラ
別に悪いというわけではないが、いろいろと思うところが。
まず、単純にあまりに死にすぎだと思う。
戦場において兵士の死亡率というのは存外低い。
ただ、「攻撃力>防御力」という魔人の設定ではこういう戦場もあるのかもしれない。
現実の戦場は防御力が攻撃力を上回っているという奇妙な状況になっている。
戦車の主砲で戦車の正面装甲は破壊できない。
それと比較すれば、この死亡率も納得できる……?

他の問題として。
キャラがあまりにばったばった死んでいくので、『バトルロワイヤル』を思い出した。
もっとも、バトロワよりはキャラ設定がしっかり錬られているし、わかりやすい噛ませ犬というのも少ない。
(架神恭介は絶対早い段階で死ぬと思ってたけどw)
しかしそれだけに、キャラが作者の思想※を表現するための道具のように死んでいくように感じられてちょっと哀しくなった。
(※たとえば、「論理能力は絶対!」「一瞬の油断が命取り!」「因縁があるから生き残れると思うなよ!」というような)

これはキャラの死に対する普通の悲しみとは違う。
連載ものの長編でないかぎり、作中でいくらキャラが死んでも大してショックは受けない。
別に作者も読者をビビらせようとキャラを殺すわけではないだろうけど、なんか虚しいものを感じてしまう。
映画や小説のような、一つで完結するタイプの作品(「一話完結」とする)でショックを受けた「死」が描かれた作品といえば、僕の知るかぎり『アイ・アム・レジェンド』くらいなもの。
普通は、長い期間を経て愛着を得て、「こいつが死ぬわけないだろ」「まさか死ぬとは」「まだ出番はあったのに」といった感じでショックを受ける。
最終回で死んでも大してショックはない。作品もその時点で終わるのだから。
一話完結で死者が出ても、映画なら残り時間、小説なら残りページ分の命が失われたにすぎない。
というのを再認。「キャラの死」の扱いというのは難しいものだ。

あと、「副○○」ってポジションはやっぱり噛ませ犬なんだなあ。


・オチ
ひどくもあり、うまくもあり、定石通りでもあり。
評価方向としてはプラスではあるけれど、評価に困るオチだw
『バトルロワイヤル』みたいに主人公とヒロイン以外全員死んでるのになんとなくハッピーエンドっぽく終わるのは「どうなの?」って気もするけど、こうも馬鹿っぽいと許せる気もする。
バトロワはクラスメイト、本作は知り合って一日。
まあ、いいんじゃないでしょうか。
女子高生。

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