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あえばさんのブログです。(※ブログタイトルはよろぱさんからいただきました)
レビュー・感想・紹介
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主人公を甘く見たり、馬鹿にしたり、侮ったりするものは、往々にして「真実の見えていない小物」であり、破滅の運命に導かれる。
なぜならそれは「間違った評価」であり、実際の主人公は強く賢く、最終的には勝利を確約されているからである。
ジャック・ライアンもまた、そのような主人公だった。

だが、大統領としてはどうか?
今までのライアンの活躍はCIA分析官として、あるいはその延長線上にあるものだった。
作中のある人物はライアンをこう評した「補佐としては優秀だがリーダーには向いていない」。
多くの読者もこの評には肯かざるを得ない。
実際の能力ばかりだけではない。
大統領がその能力を発揮するには「評判」が重要な要素になり得る。
仮にライアンが大統領としても優れた人物であっても、国民をはじめとした多くの人々から支持を集めなければ大統領としての責務はなしえない。
「正しい評価」「間違った評価」があるのではなく、それらの評価が今後のライアンの運命を決定する。
たとえば、ライアンは前大統領の葬儀で、原稿通りのスピーチではなくその遺族である子供たちに向けた言葉を発した。
あるものは「情に流されるものは大統領には向いていない」と評した。
あるものは「本当に大切なことを知っている大統領にふさわしい人物」と評した。
どちらが正しいか、ではない。どちらが強いかだ。
どの意見も平等に読者の元に届き、読者の認識を揺らがせる。
ライアンを甘く見るものも、ライアンを馬鹿にするものも、ライアンを侮るものも、誰もがそれゆえに盲目ではなく、誰もが真実になり得る資格を有している。
ライアンは自身の能力だけでなく、自身の評価に左右される職に就いてしまった!


「大統領になってしまったライアン」――ここまで盛り上がるものだったとは。
日米開戦』ではめっきり影が薄かったが、やはり主人公だという風格を見せた。
どうしたらいいのかわからない。今まで住んでいた世界とは違う。「政治家でない」ライアンはそんな戸惑いを覚えながら、じょじょに政治というゲームのルールを覚えていく。
かなり政治的なテーマにも触れられる。
遊説で国民の支持を獲得していくさまはRPGでのレベル上げを見ている気分で楽しいが、実際には単純な右肩上がりではない。
いくら立派な演説を重ねようと国民には届かない事例はある。現実社会でいくらでも見てきた。
彼がやろうとしていることはおそらく正しい、が、過激だ。同時に多くの敵もつくる。

その政治ゲームでの最大の悪役はエド・キールティ。
恐怖の総和』におけるエリザベス・エリオットに匹敵するウザさを見せつける。
本作でのガチな悪役はダリアイだけど、彼はガチだからいい。殺せばいいのだから。
だが、キールティは仮にも元副大統領……いえ、彼は自分が「真の大統領」だと主張してます!
前作のカミカゼアタックで合衆国政府はガタガタで、その再建に尽力しなければならないこの時期に、彼はその騒動に便乗して「実は辞任してなかったんだよね」などと供述しており……。
殺したくなるほどウザいキャラだが、もちろん殺すことなどできない。だからこそ一層ウザい!
純粋な悪役よりは、こういった身内の悪役の方が憎たらしいと思いました。


盛り上がった部分は多いが、中でもオデイとラッセル。あの話は震えた。
オデイってお馴染みさんなんだね……全然覚えてなかったです。
お馴染みさんといえば、ダゴスティーノさんをなぜ殺した! むきいいいい!



以下、全体を読んだ上でのまとめ感想。ネタバレ満載でお送り。

これ、大筋のプロットは『日米開戦』と同じ……?
リアル国家同士での戦争を描く以上仕方ないことなのかも知れないけれど、架空の悪役に全責任を押しつけて「決して敵国民(今回はイスラム教含む)が悪いわけではない」というような予防線を張っているせいで、戦争が起きているのにどうにもスケールが小さく感じられる。
『日米開戦』は水面下の戦争ですよ?
せっかくだから互いの全国民が互いを憎しみあうくらいの情け容赦ない戦争をですね?
ライアンシリーズのテーマがそもそも「米国の正義」「頑張れ米国」みたいな感じだから、こういうのは野暮なんだけど、もっと米国の汚い側面も見たいなあとも思う。
(本作でも頻繁に触れられていたコロンビアの話、『今そこにある危機』で十分堪能できる? ちなみに未読)

さて、『恐怖の総和』から「事件が起きるまでの長い前振りと急テンポな事後処理パート」というのはパターン化しているが、事件のスケール感はだんだん落ちてる印象だ。
並べてみると、「核テロと米露間での核戦争の回避」「日本との戦争とカミカゼアタック」「エボラテロとイスラム連合国との戦争」。
とはいえ、『合衆国崩壊』のメインは事件よりも「大統領になってしまったライアン」にあるとは思う。
その意味でスケールは大きい。主人公が抱え込む問題の大きさは最大だ。

個人的な感想だけど、『恐怖の総和』は事件が起きるまでが退屈で起きてからはめちゃくちゃ面白かった。
一方、『合衆国崩壊』は事件が起きるまでが楽しくて、起きてからは退屈だった。
エボラテロからラマンあたりまでは面白かったけど、第二次湾岸戦争がどうにも盛り上がらない。
ここまで来ると勝つのはわかりきってるからだ。
終盤はかなり駆け足な印象を受けた。四巻構成でそれまでの経緯をじっくり書いてる落差のせいでもあるが。
事件が起こる前までは「こいつ(ダリアイ)マジどうすればいいんだよ……」という感じでドキドキしながら読んでいたが、事件が起こると「あ、終わったなこいつ」という感じで冷めてしまった。
こういう悪役に対する妙な諦めを覚えてしまうのは『日米開戦』の矢俣さんとデジャビュ。
矢俣さんは始めから死臭がやばかったけど。

『合衆国崩壊』は前作のカミカゼアタックに便乗して「米国が弱ってる隙に野望達成だぜ!」というプロットなので自然だが、『日米開戦』はまず「日本との戦争」というアイデアがあって、「日本と戦争が起こるにはなにが必要か」という筋立てなので矢俣というキャラクターがすごく不自然に映る。
彼の死臭がやばかったのはそのせいだ。死にはしなかった気がするけど。
不自然に感じた要因としては他に「日本という国をよく知っているせい」というのもかなり大きいとも思う。
日本が米国と戦争なんてできるわけないじゃないですか!
一方、中東あたりなら湾岸戦争とか起きてるし?
でも、そのへん詳しい人から見れば『合衆国崩壊』も『日米開戦』と同程度には不自然なのかも知れない。
続編の『大戦勃発』でも似たような批判はあるようで。
このへんはどこかで嘘をつく必要があるから難しいところだと思う。



で、あれ? 〈山男〉っていったいなんだったの。
右翼っぽい運動家視点を提供するだけのキャラクター?
というか〈山男〉運動ってなによ。実在するのかと思ってググったがどうやらオリジナル。
せっかく大統領になったんだからこういう視点のキャラが必要なのはわかるけど。
なにかしでかすと思ったが最後までなにもしなかったぞ! それともなにか見逃したか!
次作の布石というわけでもなさそうだし、マジでなんだったんだあいつらは……。


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日本に潜入してるアメリカのスパイが「満員電車? なんだよこれ。マジやっべえよこいつら頭おかしいんじゃね」ってなってるシーンを観て、日本マジ異空間と改めて思う。

恐怖の総和』は前半gdgdだったけど、本作ではテンポよく立て続けに事件が起こってくれる。
日本の描写はところどろこおかしいけど、ところどころ合っているのがなんかもやもや。
しかし、この不気味な国民性は悪役としてとてもしっくり来る。

気になった点としては、どうも作戦が巧くいきすぎているように思える点。
あいかわらずライアンはスーパーヒーローだし、クラウゼヴィッツでいうところの「摩擦」が感じられない。
本作で仮に作戦が失敗するとすれば「相手がそれを上回るから」になっているのだけれど、現実には自分も相手も予期しないところでの失敗というものがありうる。
必ずどちらかが状況をコントロールしているシーソーゲームのような戦争描写になってしまっている。
変に作戦が失敗してもテンポが殺がれることになるから、それもそれで困るのだけれど。

また、多くの悪役についていえることなんだけど、矢俣さんにはなんか同情してしまう。
いろいろ頑張って計画を練ってたのに全部台無しにされちゃう。
どんどん追い詰められていく悲壮感。

また、別にそれが悪いというわけではないのだけれど、気になったのは、ライアンがあまり主人公らしくない点。
あくまで主要登場人物の一人、という感じ。
どちらかというとクラークの方が主人公に見える(原題からするとこれはあえて?)。
基本的に大統領室で報告を聞いたり、作戦を立案したりしてるだけだからいまいちパッとしない。
『恐怖の総和』ではエリザベスの妨害があり、家庭問題にもスポットが当たったりで主人公っぽい役回りを演じられていたけれど、本作ではラスト以外はあまり主人公らしくない。

逆にいえば、ラストの急展開っぷりはすごい。
いろいろ思うところもあったけど、全部吹き飛ぶくらいの勢いだった。
かわいそうに、ライアンシリーズとライアンの気苦労はまだまだ続くのです。


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オーシャンまなぶ

前々から名前は知っていたんですが、昨日か一昨日に一気に読みました。
なるほどこれは面白い。しかし、タイトルで損をしているような気はするw
僕の印象としては、コロコロコミックあたりで連載しているような、児童向けの熱血バトルマンガ? といった感じでした。そうではないんだろうなあとは思いつつ。
実際には、科学的な設定に凝っている知能バトルマンガ、といったところでしょうか。

憶測ですが、この作品のコンセプトはもともと2chやTwitter上で実際に繰り広げられるウィルコンバットから発想したんじゃないかと思ってます。
あるいは、もっと単純にディベートでも。
とにかく、根幹となったワンアイデアは言葉の殴り合い、言葉による心のダメージが実際のダメージになるという設定にあると思います。
この作品は、そのシンプルな設定から話を膨らませていくのが非常に巧い。
この特殊なルールの中では、もちろんさまざまな特殊な戦術が考えられます。
まずはそういった能力知能バトルの醍醐味。
それだけに留まらず、当然生じる様々な疑問を巧く処理する形で設定を広げ、物語に組み込んできます。
なぜ言葉の暴力が実際のダメージになるのか? なぜ物理攻撃が無効になるのか?
無効になったエネルギーはどこへ行くのか? ダメージを再現するエネルギーはどこから来るのか?
これらを「そういうもの」という思考停止で済ませずに、作中の科学者はこれらの問題に疑問を抱き、必ずしも究極的な結論にたどり着けるとは限らないまでも、説得的な仮説や回答が用意されています。
ファンタジーでは必ずといっていいほど問題になる質量保存則やエネルギー保存則も、無視せずに果敢に挑みます。

風呂敷を広げないためのルール設定ではなく、逆にどんどん風呂敷が広がっていくのが非常に快い。
たとえば、凍結の輪(フリーズ・リング)という技。
物理攻撃を無効化し、言葉のダメージを実際のダメージとして再現するのは、「ネバー」という設定で説明されます。
言葉を話す生物はこの薄い皮膜に覆われており、この皮膜がその機能を再現します。
本人が受け入れた場合には触れ合うことができるが、拒絶した場合にはどんな力でも彼にダメージを与えたり、彼を動かしたりすることはできない。
ただし、この設定ではある問題が生じてきます。
この皮膜そのものが武器になるというものです。
すなわち、この皮膜を纏った生物が敵の首などを絞め、手で輪っかをつくるとどうなるか。
ネバーが防御しているため絞殺はできませんが、それは首を絞めている犯人も同じこと。
つまり、互いのネバーが干渉し合って動けなくなるわけです。
「言葉の殴り合い」というコンセプトからは外れながらも、そこを出発点として発想された設定の裏を掻くような技になります。
あるいは、耳を塞いでしまえば無敵では? という疑問。
これにも納得できる解答が用意されています。
このように、かなり設定に凝った作品ではありますが、それらがすべて必然的に、論理的に繋がっている。
「こういう設定ならこういうこともできるよね?」というアイデアをこれでもかと詰めてきて、後付け設定のようなものがほとんど感じられません(実際には、あとから思いついたアイデアはたくさんあるとは思いますが)。

他にこの作品の魅力としては、『バクマン』で言うところの「邪道な王道バトル」「シリアスな笑い」というものです。
「言葉の殴り合い」という設定のため、罵りあいで受けた心のダメージが客観的に目で見てわかるダメージになる。
普通ならただの挑発にすぎない言動が、この作品ではメインウェポンになる。
挑発の巧いやつ、挑発に流されないやつ、いわゆる大物の風格を持っている人物がそのまま強者になるわけです。
それを大真面目に描いているせいで、妙に滑稽で面白い。

それからキャラ!
むろん、僕の好きなキャラはグラーヴェさんです。
「『神以外では説明できないほど不可解だから』そんな論法は我々の世界では、寝言よりも価値を持たない」
この台詞に惚れました。ドーキンスさん? ドーキンスさんなの? ってくらい惚れました。
モデルはアインシュタインあたりでしょうか。彼もそんな感じの思想を持っていた気がします。
こんな素敵な科学者キャラが不可解極まる世界の謎に挑むわけですよ。素敵じゃないですか。
なかでも「世界に言語が一種類しかないのはおかしい」という指摘が面白かったです。
よくあるファンタジー世界のメタパロでもあり、言葉が武器になるという世界観ならではの設定であり、同時に国境を越えても言葉が通じるという不自然な状況の説明にもなる。

さらにいうと(まだあるんかい)、伏線の張り方が見事。
自然な形で、伏線とは思わせないタイプの伏線を至る所に鏤めます。
特に辞書の伏線は驚きました。(これを思いついた作者の高揚感は、すごかっただろうな……!)


という感じで、大変面白いマンガであります。
まあ、もちろん細かい突っ込みどころやちょっとした不満点はないではないですが。
「スネひょんは大きな野望があるのに幼女いじめてなにしてたん?」とか、「クラーヴェ保存則は本当にそれエネルギー収支釣り合うの?」とか。些細なことではありますが。
主人公が世界の構造そのものを変えようとするセカイ系なとこも気になりますが、このへんはどう転んでいくのか。
スネひょんのエピソードから、世界を変えるなんてただごとじゃない、という自覚はあるようですし。
あとは主人公のキャラデザ。どうしてそうなったw
読んでいるとなんか洗脳されて違和感なくなるんですけど、初見だとここで躓くような気がするw
まあなんですか、さくっと読めると思うので読んでみたらいいんじゃないですかね!

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エリザベスうぜえええええ!!!

これだけでこの小説について語りたかったことの半分は語り尽くしてしまった気がする。
「女を国防に関わらせるな。この小説を通して私が言いたかったのはそれだけです」
って、トム・クランシーが言ったらころっと納得するレベル。
主人公のジャック・ライアンに私的な恨みを持って、ねちねちと妨害したり、がんばったライアンの手柄をなかったことにしたり。
(訳者解説で知ったけど前作からの恨みだったらしい)
「国家安全保障問題担当大統領補佐官」という立場にあって大統領と性的な関係を結び緊急事態において役立つどころか事態を混乱に導く勘違い「助言」を連発。
テロリストは彼女の存在に感謝すべきだし、彼女がいたからこその計画だった。
むしろ彼女なしで計画の成功はあり得たの? そのへんどうなのカティさん?


トム・クランシーの小説を読むのはこれがはじめてだったんだけど、まず驚いたのが描写の異常なまでの詳細さ。
テロリストの核兵器製造シーンの本気っぷりがやばい。
核兵器の動作原理、製造方法、必要な材料・知識・技術なんての事細かに解説。
「この通りにやればマジでつくれちゃうんじゃね?」ってレベルでもう執拗なまでに詳しく。
まあ、この部分は本作のメインだからいい。でもそれだけじゃない。
ライアンを追い詰めるためのネタを探す人の描写とか、浮気疑惑に悩む奥さんとか、あの、そのへんあまり興味ないんでそんなに詳しく書かなくても……。
空間恐怖症の漫画家のように、なにか病的なものを感じる書き込みっぷりだった。

そのため、上巻730p+下巻400p=約1100pが前振り。
一方、事件が起こってからのスピード感とワクワク感は異常。
いやまあ、僕もね、音楽で「前奏が長い」みたいなコメントみて「歌が入るまでを前奏呼ばわりする男の人って……」とか思ってたけど、これは前振り長いと言われても仕方がない。
潜水艦の描写なんか、「事件が起これば本筋に関わってくるんだろうなあ」と予想はできるんだけど、前振りの段階では「なんでこいつらちょこちょこ顔出してくんの?」感が否めない。
潜水艦面子はキャラもあんまり立ってない印象。必要なのはわかるんだけど。キャラ小説でもないのはわかるんだけど。

キャラで言えば、ダガスティーノさん萌え。
ああいうポジションのキャラ好き。
「主な登場人物」にも載ってないような脇キャラだけどな!
というか、エリザベスを的確に批判する人ならそれだけで好きになっちゃいそう。

あとはジャック・ライアンのスーパーヒーローっぷり。
大統領とエリザベスが馬鹿すぎるだけかも知れないけど。
ライアンの言動は常に正しいって感じが気になる。
たまには間違えて……たっけ?
有能な主人公が過労に苦しむのは世界共通、仕事のせいで家庭問題がやばい、ってのは世界共通かも知れないけど、過労すぎてやばいので仕事辞めますって当たり前の判断は、日本だと……どうなん?
「過労でも仕事を続ける男の人かっこいい!」になっちゃうのかなあ。やっぱり。


最後にライアンシリーズ全体で気になるのは。
現実世界をモデルにしながらも大統領なんかは架空の人物だし、毎回架空のとんでもない事件が起こってるんだけど、シリーズ続けていくうちに歴史が現実世界と大きなズレが出てくるんじゃないか、という問題。
『恐怖の総和』でいえば、たとえばリアルでは911後にやばい法律ができたり戦争になったりした。経済的にも大きな打撃を受ける。
似たようなことが起こって、ライアンは前作の帳尻合わせみたいなのに追われたりしないのかしら。
というわけでファンサイトの年表眺めてたら、日米戦争起こるのかwww
やっべえ。超気になる。
いろいろ調べたらシリーズ通しての伏線なんかもあるようで?
というわけで、これからもトム・クランシーは他にも何作か読んでみようと思うます。



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ちょ、オチが予想の範囲内すぎてやばい。
設定説明の段階でネタバレ過ぎる。
とはいえ、SF的アイデアと現実ネタとの絡ませ方はやはり巧い。
ソウヤーはこのくらいのバランスがベストだと思う。
フレームシフト』での解説の言葉を借りれば「地に足のついたSF」。
現実とSFの比率が五分五分くらい。それでミステリー要素を混ぜる。
たとえば、「現実の司法で宇宙人を裁いたらどうなるの?」という『イリーガル・エイリアン』。
スタープレックス』みたいな想像力の飛躍を要求されるようなSFは向いてない感じ。あんま面白くなかったし、登場人物の思考回路が現代的すぎて萎えた。


閑話休題。
一番の突っ込みどころは勝手にホーキング殺すなww
むしろまだ生きてるホーキングに突っ込むべきなのか……?

それから、「別にそれ本題に必要ないよね?」みたいな横道逸れた話も多かった。
『フレームシフト』は「その話がどう主人公に関わってくるの?」みたいなばらまかれた伏線が収束していく楽しさはあったけど、この作品に関してはそういうのはあんまりない。
あくまでテーマと設定の説得力を補強するだけ
たとえば「猿の権利」。作者の思想を織り交ぜたかっただけなんじゃないのかな。
というか、魂波の発見云々そのものが本題のための導入でしかないという……。

節々に挿入される「ネットニュース・ダイジェスト」もなんかの伏線かと思いきや、ミステリー部分にはほとんど関わってこない。
まあ、これはこれ自体で面白い小ネタなのでよし。
魂波の発見でもまるで揺るがない中絶賛成派/反対派の表明は笑った。


面白かったか、というと、まあ面白かったけれど、ミステリーとしてはどうなのこれ。
犯人のネタバレ説明の部分も、そんなびっくりするようなものでもないし。
SFとしては、勇み足せずにデータをいっぱい採ってから発表しようぜとか対照実験の概念とか出てきて、世紀の新発見をしてしまってうひょーってなってる科学者の追体験をできる感じが面白い。
「これは絶対読むべき!」とオススメするほどではないけれど、お暇なときに如何? ってところかな。
(前者にあたるのが『イリーガル・エイリアン』。これは読むべき!)


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プロフィール
HN:
饗庭淵
性別:
男性
自己紹介:
読みは「あえばふち」だよ!
SFが好きです。
公開中のゲーム作品
ロリ巨乳の里にて
パイズリセックスRPG。

幽獄の14日間
リソース管理型脱出RPG。

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