あえばさんのブログです。(※ブログタイトルはよろぱさんからいただきました)
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『合衆国崩壊』
writer:饗庭淵 2012-01-14(Sat) レビュー・感想・紹介
主人公を甘く見たり、馬鹿にしたり、侮ったりするものは、往々にして「真実の見えていない小物」であり、破滅の運命に導かれる。
なぜならそれは「間違った評価」であり、実際の主人公は強く賢く、最終的には勝利を確約されているからである。
ジャック・ライアンもまた、そのような主人公だった。
だが、大統領としてはどうか?
今までのライアンの活躍はCIA分析官として、あるいはその延長線上にあるものだった。
作中のある人物はライアンをこう評した「補佐としては優秀だがリーダーには向いていない」。
多くの読者もこの評には肯かざるを得ない。
実際の能力ばかりだけではない。
大統領がその能力を発揮するには「評判」が重要な要素になり得る。
仮にライアンが大統領としても優れた人物であっても、国民をはじめとした多くの人々から支持を集めなければ大統領としての責務はなしえない。
「正しい評価」「間違った評価」があるのではなく、それらの評価が今後のライアンの運命を決定する。
たとえば、ライアンは前大統領の葬儀で、原稿通りのスピーチではなくその遺族である子供たちに向けた言葉を発した。
あるものは「情に流されるものは大統領には向いていない」と評した。
あるものは「本当に大切なことを知っている大統領にふさわしい人物」と評した。
どちらが正しいか、ではない。どちらが強いかだ。
どの意見も平等に読者の元に届き、読者の認識を揺らがせる。
ライアンを甘く見るものも、ライアンを馬鹿にするものも、ライアンを侮るものも、誰もがそれゆえに盲目ではなく、誰もが真実になり得る資格を有している。
ライアンは自身の能力だけでなく、自身の評価に左右される職に就いてしまった!
「大統領になってしまったライアン」――ここまで盛り上がるものだったとは。
『日米開戦』ではめっきり影が薄かったが、やはり主人公だという風格を見せた。
どうしたらいいのかわからない。今まで住んでいた世界とは違う。「政治家でない」ライアンはそんな戸惑いを覚えながら、じょじょに政治というゲームのルールを覚えていく。
かなり政治的なテーマにも触れられる。
遊説で国民の支持を獲得していくさまはRPGでのレベル上げを見ている気分で楽しいが、実際には単純な右肩上がりではない。
いくら立派な演説を重ねようと国民には届かない事例はある。現実社会でいくらでも見てきた。
彼がやろうとしていることはおそらく正しい、が、過激だ。同時に多くの敵もつくる。
その政治ゲームでの最大の悪役はエド・キールティ。
『恐怖の総和』におけるエリザベス・エリオットに匹敵するウザさを見せつける。
本作でのガチな悪役はダリアイだけど、彼はガチだからいい。殺せばいいのだから。
だが、キールティは仮にも元副大統領……いえ、彼は自分が「真の大統領」だと主張してます!
前作のカミカゼアタックで合衆国政府はガタガタで、その再建に尽力しなければならないこの時期に、彼はその騒動に便乗して「実は辞任してなかったんだよね」などと供述しており……。
殺したくなるほどウザいキャラだが、もちろん殺すことなどできない。だからこそ一層ウザい!
純粋な悪役よりは、こういった身内の悪役の方が憎たらしいと思いました。
盛り上がった部分は多いが、中でもオデイとラッセル。あの話は震えた。
オデイってお馴染みさんなんだね……全然覚えてなかったです。
お馴染みさんといえば、ダゴスティーノさんをなぜ殺した! むきいいいい!
以下、全体を読んだ上でのまとめ感想。ネタバレ満載でお送り。
これ、大筋のプロットは『日米開戦』と同じ……?
リアル国家同士での戦争を描く以上仕方ないことなのかも知れないけれど、架空の悪役に全責任を押しつけて「決して敵国民(今回はイスラム教含む)が悪いわけではない」というような予防線を張っているせいで、戦争が起きているのにどうにもスケールが小さく感じられる。
『日米開戦』は水面下の戦争ですよ?
せっかくだから互いの全国民が互いを憎しみあうくらいの情け容赦ない戦争をですね?
ライアンシリーズのテーマがそもそも「米国の正義」「頑張れ米国」みたいな感じだから、こういうのは野暮なんだけど、もっと米国の汚い側面も見たいなあとも思う。
(本作でも頻繁に触れられていたコロンビアの話、『今そこにある危機』で十分堪能できる? ちなみに未読)
さて、『恐怖の総和』から「事件が起きるまでの長い前振りと急テンポな事後処理パート」というのはパターン化しているが、事件のスケール感はだんだん落ちてる印象だ。
並べてみると、「核テロと米露間での核戦争の回避」「日本との戦争とカミカゼアタック」「エボラテロとイスラム連合国との戦争」。
とはいえ、『合衆国崩壊』のメインは事件よりも「大統領になってしまったライアン」にあるとは思う。
その意味でスケールは大きい。主人公が抱え込む問題の大きさは最大だ。
個人的な感想だけど、『恐怖の総和』は事件が起きるまでが退屈で起きてからはめちゃくちゃ面白かった。
一方、『合衆国崩壊』は事件が起きるまでが楽しくて、起きてからは退屈だった。
エボラテロからラマンあたりまでは面白かったけど、第二次湾岸戦争がどうにも盛り上がらない。
ここまで来ると勝つのはわかりきってるからだ。
終盤はかなり駆け足な印象を受けた。四巻構成でそれまでの経緯をじっくり書いてる落差のせいでもあるが。
事件が起こる前までは「こいつ(ダリアイ)マジどうすればいいんだよ……」という感じでドキドキしながら読んでいたが、事件が起こると「あ、終わったなこいつ」という感じで冷めてしまった。
こういう悪役に対する妙な諦めを覚えてしまうのは『日米開戦』の矢俣さんとデジャビュ。
矢俣さんは始めから死臭がやばかったけど。
『合衆国崩壊』は前作のカミカゼアタックに便乗して「米国が弱ってる隙に野望達成だぜ!」というプロットなので自然だが、『日米開戦』はまず「日本との戦争」というアイデアがあって、「日本と戦争が起こるにはなにが必要か」という筋立てなので矢俣というキャラクターがすごく不自然に映る。
彼の死臭がやばかったのはそのせいだ。死にはしなかった気がするけど。
不自然に感じた要因としては他に「日本という国をよく知っているせい」というのもかなり大きいとも思う。
日本が米国と戦争なんてできるわけないじゃないですか!
一方、中東あたりなら湾岸戦争とか起きてるし?
でも、そのへん詳しい人から見れば『合衆国崩壊』も『日米開戦』と同程度には不自然なのかも知れない。
続編の『大戦勃発』でも似たような批判はあるようで。
このへんはどこかで嘘をつく必要があるから難しいところだと思う。
で、あれ? 〈山男〉っていったいなんだったの。
右翼っぽい運動家視点を提供するだけのキャラクター?
というか〈山男〉運動ってなによ。実在するのかと思ってググったがどうやらオリジナル。
せっかく大統領になったんだからこういう視点のキャラが必要なのはわかるけど。
なにかしでかすと思ったが最後までなにもしなかったぞ! それともなにか見逃したか!
次作の布石というわけでもなさそうだし、マジでなんだったんだあいつらは……。
なぜならそれは「間違った評価」であり、実際の主人公は強く賢く、最終的には勝利を確約されているからである。
ジャック・ライアンもまた、そのような主人公だった。
だが、大統領としてはどうか?
今までのライアンの活躍はCIA分析官として、あるいはその延長線上にあるものだった。
作中のある人物はライアンをこう評した「補佐としては優秀だがリーダーには向いていない」。
多くの読者もこの評には肯かざるを得ない。
実際の能力ばかりだけではない。
大統領がその能力を発揮するには「評判」が重要な要素になり得る。
仮にライアンが大統領としても優れた人物であっても、国民をはじめとした多くの人々から支持を集めなければ大統領としての責務はなしえない。
「正しい評価」「間違った評価」があるのではなく、それらの評価が今後のライアンの運命を決定する。
たとえば、ライアンは前大統領の葬儀で、原稿通りのスピーチではなくその遺族である子供たちに向けた言葉を発した。
あるものは「情に流されるものは大統領には向いていない」と評した。
あるものは「本当に大切なことを知っている大統領にふさわしい人物」と評した。
どちらが正しいか、ではない。どちらが強いかだ。
どの意見も平等に読者の元に届き、読者の認識を揺らがせる。
ライアンを甘く見るものも、ライアンを馬鹿にするものも、ライアンを侮るものも、誰もがそれゆえに盲目ではなく、誰もが真実になり得る資格を有している。
ライアンは自身の能力だけでなく、自身の評価に左右される職に就いてしまった!
「大統領になってしまったライアン」――ここまで盛り上がるものだったとは。
『日米開戦』ではめっきり影が薄かったが、やはり主人公だという風格を見せた。
どうしたらいいのかわからない。今まで住んでいた世界とは違う。「政治家でない」ライアンはそんな戸惑いを覚えながら、じょじょに政治というゲームのルールを覚えていく。
かなり政治的なテーマにも触れられる。
遊説で国民の支持を獲得していくさまはRPGでのレベル上げを見ている気分で楽しいが、実際には単純な右肩上がりではない。
いくら立派な演説を重ねようと国民には届かない事例はある。現実社会でいくらでも見てきた。
彼がやろうとしていることはおそらく正しい、が、過激だ。同時に多くの敵もつくる。
その政治ゲームでの最大の悪役はエド・キールティ。
『恐怖の総和』におけるエリザベス・エリオットに匹敵するウザさを見せつける。
本作でのガチな悪役はダリアイだけど、彼はガチだからいい。殺せばいいのだから。
だが、キールティは仮にも元副大統領……いえ、彼は自分が「真の大統領」だと主張してます!
前作のカミカゼアタックで合衆国政府はガタガタで、その再建に尽力しなければならないこの時期に、彼はその騒動に便乗して「実は辞任してなかったんだよね」などと供述しており……。
殺したくなるほどウザいキャラだが、もちろん殺すことなどできない。だからこそ一層ウザい!
純粋な悪役よりは、こういった身内の悪役の方が憎たらしいと思いました。
盛り上がった部分は多いが、中でもオデイとラッセル。あの話は震えた。
オデイってお馴染みさんなんだね……全然覚えてなかったです。
お馴染みさんといえば、ダゴスティーノさんをなぜ殺した! むきいいいい!
以下、全体を読んだ上でのまとめ感想。ネタバレ満載でお送り。
これ、大筋のプロットは『日米開戦』と同じ……?
リアル国家同士での戦争を描く以上仕方ないことなのかも知れないけれど、架空の悪役に全責任を押しつけて「決して敵国民(今回はイスラム教含む)が悪いわけではない」というような予防線を張っているせいで、戦争が起きているのにどうにもスケールが小さく感じられる。
『日米開戦』は水面下の戦争ですよ?
せっかくだから互いの全国民が互いを憎しみあうくらいの情け容赦ない戦争をですね?
ライアンシリーズのテーマがそもそも「米国の正義」「頑張れ米国」みたいな感じだから、こういうのは野暮なんだけど、もっと米国の汚い側面も見たいなあとも思う。
(本作でも頻繁に触れられていたコロンビアの話、『今そこにある危機』で十分堪能できる? ちなみに未読)
さて、『恐怖の総和』から「事件が起きるまでの長い前振りと急テンポな事後処理パート」というのはパターン化しているが、事件のスケール感はだんだん落ちてる印象だ。
並べてみると、「核テロと米露間での核戦争の回避」「日本との戦争とカミカゼアタック」「エボラテロとイスラム連合国との戦争」。
とはいえ、『合衆国崩壊』のメインは事件よりも「大統領になってしまったライアン」にあるとは思う。
その意味でスケールは大きい。主人公が抱え込む問題の大きさは最大だ。
個人的な感想だけど、『恐怖の総和』は事件が起きるまでが退屈で起きてからはめちゃくちゃ面白かった。
一方、『合衆国崩壊』は事件が起きるまでが楽しくて、起きてからは退屈だった。
エボラテロからラマンあたりまでは面白かったけど、第二次湾岸戦争がどうにも盛り上がらない。
ここまで来ると勝つのはわかりきってるからだ。
終盤はかなり駆け足な印象を受けた。四巻構成でそれまでの経緯をじっくり書いてる落差のせいでもあるが。
事件が起こる前までは「こいつ(ダリアイ)マジどうすればいいんだよ……」という感じでドキドキしながら読んでいたが、事件が起こると「あ、終わったなこいつ」という感じで冷めてしまった。
こういう悪役に対する妙な諦めを覚えてしまうのは『日米開戦』の矢俣さんとデジャビュ。
矢俣さんは始めから死臭がやばかったけど。
『合衆国崩壊』は前作のカミカゼアタックに便乗して「米国が弱ってる隙に野望達成だぜ!」というプロットなので自然だが、『日米開戦』はまず「日本との戦争」というアイデアがあって、「日本と戦争が起こるにはなにが必要か」という筋立てなので矢俣というキャラクターがすごく不自然に映る。
彼の死臭がやばかったのはそのせいだ。死にはしなかった気がするけど。
不自然に感じた要因としては他に「日本という国をよく知っているせい」というのもかなり大きいとも思う。
日本が米国と戦争なんてできるわけないじゃないですか!
一方、中東あたりなら湾岸戦争とか起きてるし?
でも、そのへん詳しい人から見れば『合衆国崩壊』も『日米開戦』と同程度には不自然なのかも知れない。
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