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『すばらしい新世界』
writer:饗庭淵 2013-05-27(Mon) レビュー・感想・紹介 
『すばらしい新世界』はいわゆる「反ユートピア」小説として書かれており、「人間が自らの尊厳を見失う恐るべき逆ユートピア」などとして紹介されている。
しかし、この世界のなにがそんなに「おそろしい」のか。
むろん「完全な世界」とは言いがたい。それこそ現代社会と同程度に問題は抱えている。
だが、それだけのことにすぎない。
そもそも「人間の尊厳」とはなんのことか?


まず、人間が自然生殖を捨て、まるで工業製品のように「生産」されていること。
この状況は「人間の尊厳」とやらを損なっているのか?
生殖手段を外部委託する体制はそれを失ったときのリスクが問題になる?
そもそも人類は社会化なしには出産すらままならない生物だ。
すなわち「産婆」という職業がなければ出産という生物としてふつうの営みですら母体は命の危険にさらされる。
母体を危険にさらす赤子の巨大な頭蓋には高度な知性が約束され、社会化を促す。
単独では出産すらままならない原因と結果が綺麗にループしている。
人類はそういう戦略を選んだ生物だ。

かつては乳母の存在すら否定された。
現在では代理母の存在が批判に晒されている。
いずれも「自然の摂理」に反するという非合理な理由で。
しかし哺乳瓶が一般化している現代の状況を鑑みれば、代理母もいずれ当たり前に受け入れられるだろう。
そしていつしか人工子宮の普及により母体をわざわざ危険にさらす「出産」という行為自体が忌むべきものと見なされるはずだ。

「新世界」では自然生殖は忌むべき行為と見なされ、家庭も否定されている。
これらは生殖技術の発展に伴う価値観の変化にすぎない。
これまでも子育てや家庭の有り様は時代と共に変化を遂げてきた。
この状況に「おぞましい」要素は一つもない。
現代と異なる価値観というだけでただ感情論として「おぞましい」とするなら、「新世界」の住人が野蛮人を「おぞましい」と見なすその反応と、なにが違うというのか?



もう一つ特徴的な設定として、条件反射教育や睡眠学習によって階級ごとに「なにかを嫌う」あるいは「なにかを好む」性格が人工的に機械的に刷り込まれシステムがある。
これも「人間の尊厳」を損なうものなのか?

だが、そんなものは自然淘汰によってとっくに施されている。
「本能」や「感情」というものがそれだ。
食欲も性欲も自然淘汰による。「誰かに認められたい」「世界の仕組みを合理的に理解したい」といった動機に基づく芸術や科学も自然淘汰由来だ。
そもそも条件付けにそこまでの信頼性があるのかという科学考証はさておき、仮にそれが可能であるとしてその倫理的な是非を問う場合、我々は自然淘汰をも否定せねばならない。
自然淘汰は「人間の尊厳」を損なうのか?
自然淘汰を否定したうえでの自由意思とはなんのことか?

要するに、これは人間の自由意思をどこまで信じているのか、という問題だ。
人為的に施されたものか、自然淘汰により適応し獲得したものか。
その差が「人間の尊厳」とやらに関わるのか?
「新世界」の階級化システムを「おぞましい」と感じ、現代社会の自由を誇っているのなら、それこそ「おめでたい」としかいいようがない。
他の階級を差別し自らの階級を誇る「新世界」の住人となにも変わりはしない。


「新世界」に問題があるとすれば、安定志向が強すぎ進歩が期待できない点だ。
科学や芸術、そして宗教も否定されているらしい。書物も否定され触感映画(フィーリ)が推奨される。
安定を志向しているわりには多様性を否定し同一規格品で社会を構成しているため外敵には酷く脆い印象を受ける。
逆にいえば「新世界」が批判されるべき点はこの程度だ。
現代社会と同程度に矛盾を抱えているに過ぎない。


あるいは、ハクスリーは「新世界」を単純に「おぞましい」ものとして意図してはいなかったのかも知れない。
紹介者の偏狭な価値観が「人間が自らの尊厳を見失う恐るべき逆ユートピア」としているだけで、ハクスリー自身はもっと複雑なテーマを意図していたのかも知れない。
「新世界」の批判者として登場する「野蛮人」の、それこそ現代人並みに偏狭な価値観は皮肉を意図したものなのかも知れない。
作中の自然保護区では「野蛮人」が昔の生活のまま暮らしていて、そのうちの一人が「文明国」に訪れて様々に批判するのだが、その内容は聞くに堪えない感情論ばかりだ。


いろいろ深読みはできるが、素直に読むかぎりこの小説はクソだ。


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