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『胎界主』
writer:饗庭淵 2010-08-07(Sat) レビュー・感想・紹介 


『胎界主』というweb漫画がゲロ面白い。
商業・同人の区別なく、今まで読んだ漫画の中でトップクラスに面白いと断言できる。
すでに5年近く連載していて、フルカラーで独特の色彩感覚と世界観。
現在も3日に3枚の更新ペース。もはや人間とは思えない。
実はこの漫画を知ったのはずいぶん前で、面白さに気づいてからもだいぶ経つのだが、今になって記事を書くのはどう紹介していいかわからなかったからだ。

まず、この漫画は極度の初見殺しだ。敷居は高い。
僕自身も「ある程度」理解できたと言えるまでに三周ほど読まなければならなかった。
設定や登場人物がまとめてあるwikiと併読した。
それでも簡単には理解できないし、完全に理解できたとも思えない。
逆に言えば、何度も何度も読むことで理解が深まり、世界が開けていく快感を味わえる希有な漫画といえる。

一周目はただわけがわからず、ほとんど苦痛としかいえなかった。
二周目になるとじょじょに各々の勢力関係や思惑・暗躍が把握できるようになり、「こりゃあと一回読まねばならん!」となった。
三周目になると細かい設定なども呑み込め、それぞれのキャラクターに感情移入できるようになり「これは何度でも読める麻薬だな」という境地に至った。
今はじっくり四周目を読んでいる。


この漫画のなにが面白いのか。
人によって解釈や着目点が変わってくるだろう。
まずはその視野の広さ、世界観の広さがある。
僕が挙げるのは「物語が誰の思い通りにもならない」点だ。
様々な勢力が様々な思惑をもって複雑に入り乱れる。
各々持ちうる情報はかぎられており、各々がその中で最善手を打つ。
行動を共にする「仲間」でさえその動機はまったく異なっている。
「すべては○○の陰謀だったんだよ!」といった感じに単純化できず、「○○と△△と□□の思惑が交錯した結果」とでもいうような。
そして、誰彼もその思惑の全容を知っているわけではない。
なにもかも思い通りとニヤリと笑う黒幕はこの漫画には登場しない。
こういった複雑でリアリティのある作品はそうそう描けるものではなく、そうそうお目にかかれるものではない。
そして、それゆえに非常に難解で、奥深い作品となっている。
(初読時には登場人物が事態の全容を把握できていない感覚を追体験できるだろう)

ただし、漫画としての非の打ち所ならいくらでもある(主にわかりにくさ)。
しかし、それを補って余りある面白さがある。
人に勧めるのに際し、「わかりにくいけど、わかれば面白い!」という文句はいくら言っても言い過ぎではない。
二周以上読むことはおそらく必須で、というか二周でもまず足りないだろう。
その難解を乗り越えるだけの価値はある、しかし「これから読もう」という人にそれは少しハードルが高すぎる。
少しでもハードルを下げるため、「なぜわかりにくいのか」がある程度わかっていれば理解の助けになるのではと思い、ここに列挙する。

拍手


(※以下に挙げるのは主に第一部に関するものであり、第二部では当てはまらない場合もあります。
「わかりにくさ」については作者も自覚し、問題視しているため、じょじょに改善されます。
また、初読者は第二部から読みはじめ、雰囲気に慣れる読み方などが作者自らより推奨されています。)


①コマ割、視線誘導、間の取り方など漫画の文法表現が未熟
これを指摘するのは心苦しいけれど、間違いなく大きな要因になっている。
この点に関しては訓練された『胎界主』ファンでも未だに手こずっている部分があるのではないだろうか。
従来の紙媒体でおなじみの縦進行ではなく、見開き横長で1ページとして扱うweb漫画ならではの文法に挑戦している点も。


②説明台詞などの不自然な描写を極力避けていること
わかりにくい点ではあるが、決して悪い点ではない。
むしろこの徹底したこだわりが『胎界主』の世界にリアリティを与えている。

また、この作品では読者を配慮した情報の整理や制限がほとんどない。
たとえば、同じように壮大な世界観と複雑な設定を持ち味とする『ワンピース』では、読者の混乱を避けるため情報の制限が意識的になされている。
だが、そのような配慮もまた説明台詞と同じく「不自然」なものだ。
『胎界主』では固有名詞や未登場の人名がなんのためらいもなくホイホイ会話に現れる。
後になって登場する「東郷情」の名前がかなり早い段階から会話の中に登場していたり、逆に主人公の行動原理に関わる「井戸の連中」に関する設定は後の方にならないと明らかにならない。


③回想や場面転換に漫画的な記号表現を用いていない

これも作者のこだわりだろうか?
回想については、色合いが変わったり人物が若かったりと、わかるように配慮はしてあるが、枠外のベタ塗りなどわかりやすい表現を用いていない。
(個人的に『スラムダンク』もこれを避けていたのでちょっと混乱した)

また、描写を端折りすぎているのもある。
(「こんな壮大な構想ホントに描けるのかよ……」という焦りがあったのだろうか?)
第一部の前半、オムニバス形式の話では、起承転結のうち「起」が描写されずいきなり「承」ではじまることが多い。
唐突な場面転換と併せて初読時にはキンクリの感覚を味わうことだろう。


④設定や勢力関係が複雑
この漫画では上述したよう様々な勢力が様々な思惑で入り乱れることが面白さの一つだが、
勢力①が出現(前振り)

勢力①との敵対(動機付け)

勢力①との戦い

勢力①に勝利

勢力②が出現

(以下略)
というようなわかりやすい構成になっていない。
勢力①の雑魚がボスの存在を臭わせたと思ったら、次の話では勢力②が別の思惑で主人公に部下をけしかけてくる。
また、必ずしも「主人公VS敵」という単純な構図ではなく、「勢力①VS勢力②」が同時進行していたりする。
主人公も、相手の目的に興味を示さずとりあえず火の粉を払う、というような対応をしていたり。
登場人物も非常に多い。ただ、フルカラーなのもあり、描き分けはできているので顔の区別がつかなくて混乱する……ということはないはず。
だが、顔と名前の一致や、立場や関係の把握には時間がかかるだろう。
敵や主人公が戦う動機・目的をきちんと整理しないと理解は難しい。
だが、それがうまく整理できればある種の感動を覚えるはずだ。
ここを参考にすれば……わかる……かな?


以上、非常に難解ではありますが読み応えがある漫画です。繰り返しオススメします。
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この記事へのコメント
『胎界主』管理人の鮒です。
『胎界主』管理人の鮒です。有り難うございます。ちなみに自分もよく「ゲロ美味っ!」って使います。
意味的にゲロって変だけどニュアンスは、この漫画にぴったりですね。
「ゲロ面白い」はいつか帯にでも使わせて頂きます。
NONAME 2010/08/08(Sun):12:23 編集
無題
普通に1週目で理解できたぞ
極度の初見殺しなのかお前の読解力が低いだけなのかは分からないね
自分の思い込みを確定事項のように話すのは辞めた方がいいんじゃないかな^^
2010/08/08(Sun):48:26 編集
返信
>鮒さん
どうも、毎度『胎界主』楽しませていただいています。
だいぶ上から目線の記事ではありますが、いいところも悪いところもまとめて客観的っぽく紹介した方が説得力があるとの考えのもと書かせていただきました。ご容赦ください。
「ゲロ面白い」は僕にとっては最高級の表現になります。
これからも期待しています。


>無題
「わかりにくい」と紹介されて僕自身が読んで、実際にわかりにくいと感じたこと、複数の友人に勧めて「わかりにくい」とのことでしたので、わかりにくさゆえに挫折されると困るとの思いから、わかりにくさとそれを乗り越える価値があることを強調する形での紹介記事となりました。
たしかに、一周で理解できなかったのは僕自身の読解力と集中力の不足もあったかとは思います。よく読めばちゃんと理解できる構成になっていますからね。
饗庭淵 2010/08/08(Sun):52:51 編集
無題
だいたい合ってるっつーか
俺の意見とまったく一緒でビビッた

鮒サンの欠点であるコマ割りや更正はどっかのアシになるか編集に指摘されて覚えないと、直すの難しいだろうな
NONAME 2010/08/09(Mon):53:37 編集
無題
それやると角を矯めて牛を殺す結果になると思うわ。持ち味が死んで平坦な漫画になってしまいそう。
NONAME 2010/08/13(Fri):44:39 編集
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