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あえばさんのブログです。(※ブログタイトルはよろぱさんからいただきました)
『抗うつ薬の功罪―SSRI論争と訴訟』
writer:饗庭淵 2010-11-20(Sat) レビュー・感想・紹介 
膨大な数の証言を基に構成された本書は、抗うつ薬プロザックが自殺傾向を副作用として持つという疑惑に焦点を当て、その論争や訴訟の様子を一人称で事細かに綴っている。
非常に情報量が多く、素人である読者には判断が迷われるが、企業と医者の関係、市場の本質、精神科医の立場などディティールに富んだ記述には強い説得力がある。
人の命に関わる医薬品も、企業にとっては商品の一つでしかない。
内実の伴わないキャンペーンも厭わず、姑息で大々的なマーケティングを繰り返す。
抗うつ薬の開発は一筋縄ではいかない。
うつ病の原因や生理学的な理論は今現在ハッキリしていない。
セロトニンの過剰が原因だという説が出ればその量を抑える薬が抗うつ剤として売り出される。
となれば、企業は自社の製品を売り込むために権威ある学者を集め茶番のシンポジウムを催したり、その名を借り(もちろん承諾は取る)、広告代理店によるゴーストライティングで自社の薬を支持する論文をでっち上げる。
事前に臨床試験は幾度が行うが、失敗した臨床試験を公表しないことがしばしばある。
商業が科学を歪めている。
科学の漸進的な進歩を信じるものとしては衝撃的な内容だった。

もちろん、単純に企業が悪いというわけではない。
企業と医者との関係にも問題がある。
たとえば、処方箋制度にもとづき医者を通して患者に薬が手渡されるより、薬を市販化し直接消費者の手に入る方が安全な場合もある。
消費者が自ら店頭で薬を購入する場合は、たとえばなにかしらの副作用があらわれたなら速やかに服用を中断するだろう。
だが、医者から処方される場合、医者が服用を続けるよういうならばそれを無視することは難しい。
また、医者が薬を流通させる立場にあると、その薬になにか重大な問題があった場合でも、医者が率先してその調査や研究を進める望みは薄い。
これらの危険は、実際に何度か現れている。
もしタバコが医者を通して処方されるものだったら、その危険性や有害性は現在も明らかにされていないだろう。

もともとうつは自殺に結びつきやすい病だ。本当に薬のせいなのか?
当然ながら企業は自殺の要因を薬ではなく病気のせいだと訴え続けた。
しかしその証拠として持ち出す臨床試験の結果はどれも疑わしいものばかり。
独自に調査を進めようとするものの、利害関係のさまざまな障害にぶつかる。
本書はプロザックの危険性を暴こうという立場にはあるが、必ずしもプロザックを一方的に悪役にするための本ではない。
筆者の立場を同じくするも物言いが過剰であったり、証拠が不十分である例も報告しており、プロザックにまつわる論争が非常に混乱としたものであったことを如実に描写している。


繰り返すが、本書に含まれる情報量はあまりに膨大であり、判断に迷うことは多い。
ただ、決して扇情的な内容ではなく、記述も偏ってはいない、信頼における書であることには違いない。
分厚い本ではあるが、機会があればもう一度熟読したいものだ。

抗うつ薬の功罪―SSRI論争と訴訟

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