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胎界主・第一話の読解
writer:饗庭淵 2012-07-11(Wed) レビュー・感想・紹介 
胎界主』というweb漫画がある。
以前もこのブログで紹介記事を書いた。

さて、このたび友人の一人を新たな読者として引き込めそうでいるのだが、第一話の解説に非常に手間取った。
友人曰く「一人ではとてもじゃないが読めなかった。間違いなく挫折していた」

すでに何度も言われているし言っているが、『胎界主』の初期は非常にわかりにくい。
そのわかりにくさの要因は以前に書いたとおりだが、今回は「描写の不足」に着目し、それを補う形で第一話の読解を試みたい。
自身の覚え書きと新たな読者への補助を兼ねて。
(以下、「こうすればわかりやすい」という書き方をしているが、必ずしも「そうした方がよかった」「こうすべき」という意味ではないのであしからず。「説明しすぎない」点もまた胎界主の良さだと思っているので……)


全体の要約:
悪魔は「胎界主」と呼ばれる人間と誓約しようと営業を頑張っている。
その営業争いに巻き込まれた戸的少年とそれを助けた主人公稀男のお話。


001~1p
主人公(稀男)の生い立ちが語られている。
この最初の3ページは「初見殺し」を自覚していた作者が新たに描き直したもの(もとは1ページだけだった)。
そのため、この最初の3ページで躓くことはないと思われる。



2~5p
稀男の登場シーン。
状況としては「チンピラがレストランを襲撃しており、そこでの食事を日課としている稀男が普段通り訪れた」。
要点は「稀男は『亡くし屋』と呼ばれており、奇妙な能力を持っている」「『助けて』というワードに反応」の部分。

チンピラの取り巻き(町田)の右手がなぜ怪我をしているかは不明(ナイフとんとんで失敗?)。



7~8p
魔王ベリトの召喚シーンだが、大ゴマでベリトの全身を描く登場シーンがあればわかりやすかったように思う。
(ただ、信者脳では「そういうありきたりな演出をしないからいいんだよ!」となってしまい困る)



9p
戸的実(ベリトを召喚した子供)が魔王の能力に対し疑問を抱いたり、願い事をしたり、その願い事が実際に叶えられる描写がごっそり削られている。
戸的の学校生活に場面を移し、「ホントに100点獲れるのかよ……」などと呟かせながらテストを解いてるシーンなどを挟むとわかりやすかったように思う。



10p~12p
ここでもチンピラ(2~5pの町田)との遭遇シーンがカットされている。
また、町田がなにも発言していないにもかかわらずベリトが「願い事はふたつ……『コイン』と久松組からの『逃亡』か……」とベリトが呟いているのは、町田の表層思考を読んだからである。
このあたりも「なんでわかった?」「思考が読める……? こいつ本物か」といった反応があるとわかりやすかったと思う(作中だと「!」のみ)。

11pで「バカァ」と開いた口は「地獄の扉」。



13p~16p
皆本部長はただの噛ませです。
もっともらしくかっこいいことを仰ってますが噛ませです。
球体使い」でも同じ扱いを受けます。



17p~19p
栗島たまきは通訳の夢を持っていたが喉を患っていた。
栗島たまきは「胎界主」である。
彼女にはどうしても叶えたい「願い」がある。
戸的くんは彼女を売って自由になりました。



20p
さすがに戸的くんも罪悪感を覚えたのか、ベリトの召喚方法を教えた占い師のおじいさんにベリトを倒す方法を尋ねている。
(ちなみにおじいさんの名前はレプラコーン。妖魔である。今後も重要人物)

ただし、一介の妖魔に過ぎないレプラコーンにベリトを倒す方法などあるはずもなく、「本」をある人物に渡すようにとだけアドバイスする。
(この「本」の出所も重要な伏線)

『ベリト閣下』じゃない 『バルバトス閣下』だッ!
なぜ 間違えた?
(中略)
”間違えた”……いや”間違えさせられた”か
ええぃ!『ベール派』め こんな僻地まで監視しとるとは

このあたりもまた作中の根幹に関わる重要な伏線だが、今は「悪魔にも派閥があり、『胎界主』の獲得を巡って互いに謀略を繰り広げている」とだけわかればよい。
なお、「胎界主」の概念だが、今のところは「悪魔が特に渇望している優秀な人材」程度の理解でよい。



21~23p
ようやく主人公登場。
髪も肌も瞳も白く、不気味な容貌をしているが、「ピンク色の髪」のような漫画的表現ではなく、作中人物にも同様に(人間に見えないレベルで)不気味に見えている点に注意。
この点は「お兄さん本当に人間?」といったやりとりがあればわかりやすかった。

「本」には様々な知識(作中のファンタジー設定に関すること)が書かれているが、戸的が「白紙」だと主張しているように「選ばれたもの」(作中用語でいえば「存在級位」の高いもの)にしか読むことができない。



24p
冒頭でもあったよう「助けて」という言葉に反応している。
その理由が明らかになるのは21話「人でなしの夢」まで待たなければならない。
今は、「稀男は『助けて』といわれると断れない」とだけ覚えておけばいい。

また、ベリトと戸的の対峙のシーンでさらっと「魔王は表層思考を覗ける」という情報が書かれている。



26p
この時点で稀男はすでに六芒星に関して準備を終えているが、戸的はそのことを知らない。
「六芒星は?」「構わん」といったやりとりがあるとわかりやすかった。
作中でいえば「とっとと済ませろ」「ぶやぁぁぁ?」「むやぁぁああ?」「んっまぁ どっちを信じるのかはお前の自由だ好きにしろ」あたりがそれに該当か。



27p
「か…… 」は『還れベリト』を言おうとしているのだと思われる。
ベリトが六芒星のことを知っているのか不明だが、なんらかの手段で準備が終わったのだろうと察している(前ページの最後のコマでも冷や汗)。
しかし、いずれにせよ戸的を言いくるめてしまえば問題ないと判断し、その方針で攻めている。
そして、戸的はその誘いにまんまとはまりかけてしまっている。



28p
稀男の連れてきた栗島たまきを見て戸的は改心。

このページで難しいのは「ワシとしたことがガキに気をとられて……」の台詞である。

①主人公の見た目が妖魔
②妖魔は取るに足らない存在
③実際には妖魔と人間の混血種
④人間でなければ(混血でもよい)「たましい」を持たず「胎界主」になれない

といった前提知識が要求される。
今までは「ただの妖魔」と見くびり稀男を注視していなかったが、たまきの登場で同時に稀男を注視し、その際アカーシャ球体も確認し、稀男こそが探していた「運ぶ力の胎界主」であることを見抜いた、というシーンであると解釈できる。

また、「おばんで~す」は北海道の方便で「こんばんわ」を意味するようだが、なぜ彼女が北海道弁を使ったのかは不明。



29p
「六芒星のなかに誘い込む必要がある」と説明していたが、実際に行ったのは「ベリト(のいる戸的の家)を囲むように巨大な六芒星を描く」という方法(ある種のとんち)。
というわけで、そのことを示す最初の二コマはもう少し大きくてもよかったように思う。


30p
件の新規読者より「たまきはなんで戸的に売られたのに怒らないの?」とのことだったが、「ううん 実くんは……」との台詞から寛大な心で許している模様。



31~32p
「ほっときゃいいじゃん 」
モップで掃除していることから塗料は水溶性であり、雨でも降れば消えそうなので放っておいてもよさそうだ。
今まで一般的な常識から「後始末はちゃんとする」という視点で読んでいたが、果たして稀男にそのような「常識」はあるのか、という疑問が生じた。
「住民が起きるからさぼってるヒマねーってんだよ」との台詞から、どうやら稀男は目立ちたくない・住民との関わりを避けたいようだ。
(「夜中に騒ぎながら掃除する方が目立つのでは」という野暮なツッコミもある)

また、「三本ものモップの出所は?」というツッコミもあったが、稀男の職業が墓守なのでモップは常備されていたのではないかと推測される。
(「モップよりはむしろデッキブラシでは?」という野暮なツッコミもある)



33p
「いいさ 探すほど大切なモノでもない」
ここで稀男が落とした四つ葉のクローバーは赤ん坊の時から大事に持ってきた、間違いなく「大切なもの」である。
にもかかわらず、稀男はそれを拾わなかった。
その理由や心情は様々に憶測されるが、これもまた稀男のキャラクター性に関わる重要な伏線であり、今後も似たような描写は何度か現れる。
(このあたりは東京でん太さんの「稀男にとって四ツ葉のクローバーとは」にて詳しく考察されていますので参照ください)

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