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セドナ、鎮まりてあれかし
writer:饗庭淵 2010-12-29(Wed) レビュー・感想・紹介 
まずはこの著者・泉和良の解説からしなければならない。

彼は「アンディーメンテ」というサークルにてジスカルド名義で大量のフリーゲームを制作している。
一発ネタのおふざけゲームも多いが、『アールエス』を代表に、『スペースクウィーン』『自給自足』『君が忘れていった水槽』『AIRAM EVA』などよく作り込まれた名作も多い。
ジャンルも、RPG、シューティング、アクション、ライフゲームなど様々だ。
ゲーム性やビジュアルについては人を選ぶかもしれないが、音楽は人を選ばないことに定評がある。
そして、彼の作品の魅力としてSFがある。
先に挙げた作品でもそうだし、SF作家としての彼が知りたいのならばノベルゲーム『きせきの扉』『全人類5万年ひきこもり』がオススメだ。
また、「イズミカズヨシ」名義で数作のSF短編も発表している。

ヘルメスよ、ハデスに我の名を告げよ
塔の者
おやすみ、コネコ
日の光、血の光
星ぼしはオレの敵だ、星がわたしの夫なんです

蛇足にはなるが、彼は他にも「ジェバンニP」という顔も持ち、ニコニコ動画にて複数の楽曲を発表している。
他にも別名義で「テレパスミュージック」という企画を主催していたり、突発的にネットラジオをしたりと、ともかく様々な顔を持つ彼だが、ついには小説家としてデビューする。


第一作目は『エレGY』。
半自伝的な恋愛小説で、主人公は作者そのもの、フリーゲーム作家としての彼を知ることができる。
ただし、彼女の存在は妄想である。
もとよりAMファンだった僕にはとても面白い小説だったが、知らない人にとってはどうなのかはわからないw
逆にまったく知らない人だと「え? これマジなの?」と思わずググらずにはいられない小説だろう。

第二作目は『spica』。
「恋愛は甘くて音楽のように心地の良いものだと思っているやつがいたら死ね」
虚実の織り交ぜられたテキスト、フィクションのなかのフィクションという二重構造が不確かな現実を確かなものにする。
そんな矛盾めいた表現、しかしそれ以外に、僕はこの作品の不思議な浮遊感を表現する術を持たない。
逃げよう逃げようと懸命になるほどに、逃げることの出来ない現実の重圧がのしかかる。
弱く、ちっぽけで、かといって安っぽい幻想に逃げ込むこともできない。
不安定なまま加速する物語が実に快い。
物語は終わりと共にはじまり、長い苦悩を経て物語はある程度は収束するも、それは新たなはじまりにすぎない。
関係は続く。

これもまた恋愛小説であり、話としては前作とたいして変わらない。
主人公は音楽作家としての作者が投影されている。ニートなのは相変わらず。
文章は洗練された感がある。
あまり恋愛小説自体読まないので相対的な評価はできないが、絶対的には面白かった。
「愛」についてよく考えられた小説である。

第三作目は『ヘドロ宇宙モデル』。
これは、はっきり言って駄作だ!
駄目人間。不思議少女。いつでもやれる女。
前作、前々作とまったく同じ構図。またそのパターンかよ!
本作では人間関係が単純化されすぎというか、作者の願望と妄想をダラダラ垂れ流した印象が強い。
主人公がなにかしらのクリエイターで、そのファンの女の子と仲良くなる。
そればっかり。これも前作、前々作と同様。
「どんだけその願望が強いんだよww」とニヤニヤすることはできるが。
『spica』では虚言癖があり思い通りにいかないヒロインが魅力的であり、「愛」について重大なテーマに踏み込んでいたが、本作ではなにがテーマになってるのかよくわからない。

あ、どうでもいいけど「宇宙モデル」ってディックの「世界球」のパk



「メンヘラ恋愛小説はもういいからSF書け!!」
これはなにも僕ばかりの声ではない。AMスレでも同様の声があった。
そして待ちに待ったSF小説がやってきた。
『セドナ、鎮まりてあれかし』ハヤカワJAにて刊行!


はてさて、その内容は……?

正直、あんまり好きなタイプの話じゃなかった(´・ω・`)
つまらないというほどではなく、そこそこ面白かったけど、ファン補正がないと読めたもんじゃない、かもしれない。
「鎮魂」だとか「英霊」だとか、そういう宗教的なワードは嫌いなのです。

もちろん、この作品はあくまでSFで、神秘主義に陥るほどひどくはなかったけど。
そして実際、複雑な機械というものはときとして予想しない挙動をすることがあるので、まあリアルではあるけど。
登場人物の思想に過ぎない、といっても、対立する思想が出てくるわけではないのでどうにもバランス感覚に欠ける。
戦争に負けた太陽圏のくだりが旧日本軍を彷彿させて仕方がなかったり、ちょっと右翼的な思想が入ってたり。
あとは、あいかわらず文章表現が冗長。

面白かった点としては。
この小説は一人称なのか三人称なのか。
同じことを気にする人がどの程度いるのかわからないが、僕は気にする。
そしてどちらかというと三人称の方が好きだ。
パラパラとめくる。地の文に「私」と見える。
残念、一人称か。
とは思ったが、特に迷うことなく買う。
読んでみる。
これはいったい?

この小説は一人称の形式を借りた三人称だった!
主人公は尾野碁呂、しかし彼は地の文にて三人称で呼ばれている。
「私」は別にいるが、その場にいるわけではない。
ちょっと混乱したが、どうやら「私」はどこからか傍観している立場にあるらしい。
三人称小説でも、誰かに視点が固定され、誰かの心情が地の文で書かれてたり、あるいはなにものかの感想のようなものが混ざったりする。
この小説はそれを「私」が担当している設定なのだ。
ただ、「私」は決して物語と無関係の傍観者ではない。
じゃあ誰なの? ってことだけど、まあ予想通りでしたね。


テラフォーミングされ、戦争の激戦区となり、荒廃した辺境の惑星セドナ。
駐留する人間は2人+アンドロイド1体のみ。
彼らはただかつての戦死者の遺骨収集に明け暮れる。
そして過酷な環境のセドナには、それにふさわしい奇妙な植物が独自に進化していた。
このシチュエーションだけなら嫌いじゃない。
ただ、遺骨集めにガチで意義を見いだしてるのがどうも。
このへんになにかしらのシニカルな政治的事情とかあればよかったんだけど。
「彼はこれが立派なことだと信じているようだけれど、実際は……」みたいな。
構図が少し単純すぎて深みがなかった。

未知の植物の設定解説はそれだけで面白い。
しかしこれも、新しい単語が出てくるたびに「○○とは~」ってやられるのはちょっとげんなり。
もっと解説の仕方にパターンが欲しかったところ。

SF設定も、大きな矛盾は感じられなかったが、だいぶブラックボックスに頼った、ありきたりで甘い設定になっている。いわゆる「ハードSF」には分類できないだろう。
僕の好きなSFにはだいたい2通りあり、

①レムやイーガンのように、現代科学理論を取り入れながら、説得力のある、複雑で体系立ったSF理論を展開するもの
②『BLAME!』のように、魅力的な世界観や造語を提示しながら、あえて詳細な説明を控え、読者の想像力を刺激するもの

AM作品は基本的に後者で、本作もまあ後者。
ただ、数々の造語にそこまでセンスがあったかというと……。
悪くはないけど、そこまでよくもないかな。
気になったのは、西暦3000年の未来医療でも尾野碁呂の脳障害は治療できないのか、といったあたり。
まあ、これも「できなかったのだろう」と解釈するほかあるまい。


以上、『セドナ、鎮まりてあれかし』はそこまで面白くはなかったけれど、『きせきの扉』はマジで面白い!
うーむ、じすさん、あんまり長編には向かないのかなあ。

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