あえばさんのブログです。(※ブログタイトルはよろぱさんからいただきました)
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『完全な真空』
writer:饗庭淵 2010-05-18(Tue) レビュー・感想・紹介
レムの「架空の書評集」という奇妙な一冊。
存在しない本についてのレビューをまとめてある。
内容としては、現実に書くことが不可能な小説や、「むしろお前これ書けよw」といった小説のアイデアなどが含まれている。
ちなみに一つめのレビューが『完全な真空』、つまりこの本自体のレビューが書かれる。
それが序文の代わりになっているというわけだ。
(「序文でレム氏はこう書いています」などとあるが、その序文は存在しない)
「架空の書評集」というアイデアはレム独自のものではないようだが、読んでいろいろもったいないなあという気がした。
レビューというなら、褒めるだけでなく貶したり批判したりといった側面もあるはずだ。
だが、基本的には架空の書を絶賛する形をとっている。
あるいは、それぞれのレビューに関係性を持たせたり。
たとえば、『完全な真空』で紹介される「ロビンソン物語」と「親衛隊少将ルイ16世」は話の内容が類似している。よって、両者を比較したレビューというものがあり得たはずだ。
また、レビューを書いている人間も空想の人物であるが、これも良識を持った人間ばかりではなく、明らかに歪んだ観点から作品を論じているものなども見てみたかった。
他にも、商業的意図で書かれた絶賛レビューのパロディとか。
一つの本についての複数人のレビューも見たかった(amazonレビューみたいな)。
しかし、そういった思いは最後の「新しい宇宙創造論」で打ち消される。
他のものとして、「とどのつまりは何も無し」や「ギガメシュ」は面白かったけど、「新しい宇宙創造論」の面白さは段違いであり、レムはこれが書きたいがために「架空の書評集」などをでっち上げたのではないかと思えるほどだ。
つまり、それ以外はページ埋めに過ぎない。
そして、哲学者が書き、物理学者が発見したという設定を持つ「新しい宇宙創造論」は、架空の書評という形式だからこそ書きえた。
概略としては、宇宙創造についてはまず二つの立場がある。
「誰か(たとえば神)がこの宇宙をつくったとするもの」
「誰かがつくったわけではなく独りでに生まれたとするもの」
前者が宗教であり、後者が科学の立場である。
だが、「新しい宇宙創造論」はそのどちらでもない。
誰かがつくったというわけではないが、宇宙には仕掛け人がいる。
太陽系の年齢は50億年、宇宙は138億年。
つまり、太陽系が生まれるまで90億年近いブランクがある。
太陽系はこの宇宙における「最初の世代」ではない。
そして、もし「最初の世代」の文明が現在も続いているなら、実に数十億年もの歴史を意味する。
それほど長く続いた文明ならば、もはや我々の想像など到底及ばないほどの技術が発達しているだろう。
そう、宇宙の物理法則そのものを自在に操るほどに。
慣性の法則、光速度不変の原理、万有引力。
すべては絶対的な法則ではなく、初期世代の文明が改変した結果を我々は観測しているのであり、現在も宇宙の法則は改変され続けている。
要はこういったアイデアだ。
似たようなアイデアはソウヤーの『スタープレックス』でも見られたが、スケールがまるで違う。
SFならともかく、このような論を大真面目に発表したら狂人と断ぜられる他ない。
そして、実際にそのように扱われた。
しかも発表者は宇宙物理学者ではなく哲学者だったから。
具体的な反論と再反論は本書にあるので省くが、これは十分にあり得そうな話であり、非常に興味深い。
『ソラリス』でもそうだったが、やはりレムのアイデアには驚かされる。
完全な真空 (文学の冒険シリーズ)
存在しない本についてのレビューをまとめてある。
内容としては、現実に書くことが不可能な小説や、「むしろお前これ書けよw」といった小説のアイデアなどが含まれている。
ちなみに一つめのレビューが『完全な真空』、つまりこの本自体のレビューが書かれる。
それが序文の代わりになっているというわけだ。
(「序文でレム氏はこう書いています」などとあるが、その序文は存在しない)
「架空の書評集」というアイデアはレム独自のものではないようだが、読んでいろいろもったいないなあという気がした。
レビューというなら、褒めるだけでなく貶したり批判したりといった側面もあるはずだ。
だが、基本的には架空の書を絶賛する形をとっている。
あるいは、それぞれのレビューに関係性を持たせたり。
たとえば、『完全な真空』で紹介される「ロビンソン物語」と「親衛隊少将ルイ16世」は話の内容が類似している。よって、両者を比較したレビューというものがあり得たはずだ。
また、レビューを書いている人間も空想の人物であるが、これも良識を持った人間ばかりではなく、明らかに歪んだ観点から作品を論じているものなども見てみたかった。
他にも、商業的意図で書かれた絶賛レビューのパロディとか。
一つの本についての複数人のレビューも見たかった(amazonレビューみたいな)。
しかし、そういった思いは最後の「新しい宇宙創造論」で打ち消される。
他のものとして、「とどのつまりは何も無し」や「ギガメシュ」は面白かったけど、「新しい宇宙創造論」の面白さは段違いであり、レムはこれが書きたいがために「架空の書評集」などをでっち上げたのではないかと思えるほどだ。
つまり、それ以外はページ埋めに過ぎない。
そして、哲学者が書き、物理学者が発見したという設定を持つ「新しい宇宙創造論」は、架空の書評という形式だからこそ書きえた。
概略としては、宇宙創造についてはまず二つの立場がある。
「誰か(たとえば神)がこの宇宙をつくったとするもの」
「誰かがつくったわけではなく独りでに生まれたとするもの」
前者が宗教であり、後者が科学の立場である。
だが、「新しい宇宙創造論」はそのどちらでもない。
誰かがつくったというわけではないが、宇宙には仕掛け人がいる。
太陽系の年齢は50億年、宇宙は138億年。
つまり、太陽系が生まれるまで90億年近いブランクがある。
太陽系はこの宇宙における「最初の世代」ではない。
そして、もし「最初の世代」の文明が現在も続いているなら、実に数十億年もの歴史を意味する。
それほど長く続いた文明ならば、もはや我々の想像など到底及ばないほどの技術が発達しているだろう。
そう、宇宙の物理法則そのものを自在に操るほどに。
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『ロリ巨乳の里にて』
パイズリセックスRPG。
『幽獄の14日間』
リソース管理型脱出RPG。
『カリスは影差す迷宮で』
仲間を弱らせて殺す遺跡探索RPG。
『黒先輩と黒屋敷の闇に迷わない』
探索ホラー風セクハラゲーム。
『英雄候補者たち』
特に変哲のない短編RPG。
『Merry X'mas you, for your closed world, and you...』
メタメタフィクションノベルゲーム。
『或る魔王軍の遍歴』
「主人公補正」によって哀れにも敗れていくすべての悪役に捧ぐ。
『ドアによる未来』
「どこでもドア」はいかに世界に影響を及ぼし、人類になにをもたらすのか。
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